第9話
買ってもらった本で自主勉強し、さらに家庭教師が来る日には質問もしたりすることで、僕はそれなりの効率で魔法の勉強を進められていた。
実際、二カ月程度しか経っていないのに、素人だった僕は今やデュエマギアだ。
「そ、それでアル君、もしかして……今日も?」
「もちろん!」
そして久しぶりにあったグスタフに僕は満面の笑みを向けていた。
グスタフのシェイザ家はコレオ家と同格の男爵家。まあ、例の事情から本当の意味で同格ではないのだけど……、隣接する領地を持つ男爵家同士として、シェイザの当主はよく我が家に“親睦を深めに”くる。父上が行くではなく毎回迎えているということが、もう隠す気も無く両家の関係を示しているよね。
そして毎回一緒に連れてこられるシェイザ家の三男グスタフに、“思い出す”前の僕はいつも高圧的に接していた。典型的なガキ大将と子分の関係だ。僕もグスタフも子供でも貴族として把握するべきことは把握していた、ということなのだろう。
けどゲーム『学園都市ヴァイス』の知識があると、話が違ってくる。『アル・コレオ』はゲームの開始時点である十五歳でもグスタフを子分扱いしている。その頃には急激に成長してガタイのいい大男になっているグスタフだけど、今みたいな気の弱さもなくなっているのに、『アル・コレオ』との関係は変わっていない。しかしそれも、あくまで貴族として両家の関係を考えて“我慢”していたにすぎない。
貴族家では次代の当主が内定すると、それ以外の子供は“出家”する。これは仏僧になるということではなく、家から離れるということ。グスタフ・シェイザの場合は、長男が内定したらただのグスタフになる、ということだ。
もちろん不測の事態で家名に復帰したり、別の貴族家に入ったりといったことも往々にあるけれど、少なくとも元貴族の平民として生きていく覚悟は必要となる。
ゲームでの話に戻ると、学園に入り、シェイザ家からの出家が視野に入ってきたグスタフは、同じ立場ながらどうにも様子がおかしくなっていく『アル・コレオ』に動揺する。出家が不安なだけかと思いきや、ある時グスタフは『アル・コレオ』がガラの悪い連中と一緒に見知らぬ学園生に激しい暴力を振るっているところを目撃してしまう。
それからイベントがいくつかあって、成り行きで主人公と一緒にコレオ家の真実とドン・パラディの正体を知ってしまったグスタフは、自分を裏切った元相棒『アル・コレオ』を倒すために主人公パーティへと加入する、という流れだ。
そして今の僕にとって重要なのはここから。グスタフの信頼度を一定値まで上げることで、主人公に胸の内を明かしてくれる隠しイベントを見ることができる。そこでは、グスタフが幼い頃から内心では『アル・コレオ』を恨んでいたことを吐露するんだ。つまり、実のところ幼馴染の相棒だなんて思っていたのは『アル・コレオ』の方だけで、虐げられ続けたグスタフはかなり前から『アル・コレオ』が嫌いだったと明かす。それまではかつての友情を胸に『アル・コレオ』の目を覚まさせようとする王道的展開に見えていたものが、実はグスタフにとっては後ろ暗い復讐心が動機だったという衝撃的な転換だった。実際、隠しイベントを見ずに進めた場合でも、主人公が『アル・コレオ』を最終的に討ち取ったイベントシーンでは、グスタフは口元だけで小さく笑みを浮かべていると、一部プレイヤーの間で盛り上がったことがある。
そしてその“かなり前”のきっかけが今の状況へと繋がる。気弱で小柄な十歳のグスタフが、『アル・コレオ』に無理に連れていかれた迷いの森で、希少な魔獣の密猟者と鉢合わせてしまった際に、逃げるための囮にされたというのだ。
ゲームに登場するガタイのいい十五歳のグスタフ・シェイザには、その時の痕跡が額の傷跡として残っている。
「ね、ねえやめようよ、アル君。迷いの森って本当に危ない魔獣もでるらしいよ?」
「その時は僕が守ってあげるから大丈夫だって」
そう、今から僕はグスタフを連れて迷いの森へ行き、運命の分かれ目をこちら側へ引き寄せる! このイベントを避けて通るなんてありえない。何故なら既に十歳までの僕はグスタフに色々とつらく当たってきた記憶が残念ながらある。ここを避けたからといってこいつが主人公――いるかどうかもわからないけど――になびかない保証なんてない。
そして何より、『グスタフ』は近接戦のスペシャリストとして屈指の強キャラだ。手に入れる機会があるのに見過ごすなんて、ありえないよな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます