第8話

 ゲーム『学園都市ヴァイス』では新しいレテラを“習得”すると、派手なエフェクトとともに画面にそれを祝福するメッセージが表示される。そして以降は覚えたレテラを組み合わせて魔法が使えるようになる。

 その際の制限は二つ。使用にはMPを消費するということと、一度に組み合わせて使えるレテラの数には限度があるということ。

 

 そこを踏まえて、本の内容を勉強するというよりは、擦り合わせをするという気持ちで読んだ。

 MPについてはすぐにわかった。入門本ということで冒頭に注意書きがしてある。曰く、魔法は酷く気力を消耗するものなので、特に初級者は使い過ぎに注意しましょう、ということだ。数値化されていないという不便さはあるものの、まあ問題はない。

 次に数の制限。これも比較的最初の方に書いてあった。人間は本質的に魔力は大量に持っているから、魔法の強大さとは制御の規模と精度のことをいう。精度は訓練して熟達していくしかないとして、その中で不意にコツを掴むことがあるらしい。そうしてある時急に使えるレテラの数が増え、魔法使いとしての位階が上がる、とされている。

 この位階というのはウノマギア、デュエマギア、トレマギアと順にレテラ制御数が増えていき、四つのレテラを同時に扱えるとマエストロと呼ばれ、魔法使いではなく魔法師、つまりは師範級であるとみなされるようになる。

 

 何も魔法が使えない僕はまず、初級者のウノマギアを目指すことになる。つまりは属性文字の単独使用だ。

 自室で火を出すわけにはいかず、水と地も汚れそうで嫌、光と闇は希少であるとしか記述されていないから、選択肢は風しかない。

 ない……んだけど、なんだこれ?

 

 「書いてあるけど、読めない……? いや、認識できない?」

 

 風を意味するレテラが記述してあるページを開いているんだけど、そこに何かが書いてあるとはわかるのに、それが何かが理解できない。

 

 「あ、少し前のページに注意書きが……あった、これだ。なになに……、そのレテラについて十分に勉強し、そして素質があれば読めるようになるはずです、と」

 

 ゲームでは主人公は経験値さえ積めば新しいレテラを習得し、その制御数も最大で四まで上昇した。だけど確かにNPCに関しては、制御数の限度があるようだったし、個々のレテラとも相性があるようなセリフを読んだ記憶もある。

 それでいくと気になるのは僕自身の才能ということになるけど、ゲームでの『アル・コレオ』は全十二種のレテラを使いこなす驚異的なマエストロだったはずだ。なら、目指すしかないよな、“この世界”での未知も含んだ全レテラの習得を。

 という訳で僕はさっそく、風の魔法的解釈の項からじっくりと読み始めたのだった。

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