第4話

 ことがうまく運んだ嬉しさで、父上の前だというのに不作法をしてしまったよ。もっと行儀よく……………………いや、いっか別に。

 考えてみれば僕が父上の前で良い子のフリをしていたのは、気に入られればもしかすると優秀な兄を差し置いて次期当主に指名されるかも、とか考えていたからだ。十歳の子供らしい現実の見えていない希望的観測。

 

 だけど今の僕はそんな未来は絶対にこないことを知っている。アル・コレオのゲームでの運命……なんてものを受け入れる気は断固としてないけれど、コレオ男爵家の裏の顔は現実だ。

 “思い出した”あの日から、数日をかけて調べたところ、それは間違いがない。貴族子弟とはいえ、十歳の子供が得られる情報なんてたかが知れているけど――コレオ男爵家、異様に治安がいい領都コルレオン、絶対に近づくなと教えられた怖い人たちの存在――これだけ情報が揃えば、さすがに確信せざるを得なかった。

 覚悟を固める、の方が適切か。コレオ家が僕の知るゲーム『学園都市ヴァイス』のコレオ家と同じであるなら、裏の顔も確定。そして僕が十五歳になると同時に裏社会へと叩き込まれるのも確定、だ。

 

 僕は死にたくない。それが見えている死ならなおさら、避けたいと願う。

 だけど僕がゲームの『アル・コレオ』その人であるなら、ヴァイシャル学園に入学する十五歳から卒業する十八歳までの間に何かしらの理由で死ぬことになっている。

 悪役とはそういうもの……なんだけど、当人としてはそんな理由で受け入れられる訳がない。だけど恐ろしいことに、僕が記憶している限り、どのルートでも様々な形で『アル・コレオ』は主人公に立ちはだかり、倒されることになる。

 その倒されるにもまたバリエーションがある訳だけど……、主人公に斬り捨てられる、組織内の権力闘争で暗殺される、逮捕されて処刑、などなど……。特にひどいのはギャグルートで、ふざけまくるメインキャラクターたちの傍らで、ついでみたいに馬車に撥ねられて愉快な体勢で死ぬ。

 

 ……ごめんだ。とにかく、ごめんだ。裏組織も上等だなんてイキった記憶があるけれども、実際に恐ろしいのはこの死の運命の方だ。ゲームのシナリオが“この世界”にどれほど影響するのかは不透明だけど……、楽観視して何もせずにいてやっぱり死ぬなんてのはバカでしかないし。

 

 僕としては生き残りのカギは裏組織ことパラディファミリーだと思っている。そもそも『アル・コレオ』が死ぬのは、主人公の敵になる悪役だから。そしてただの生意気な貴族子弟が悪役となっていく理由は、パラディファミリー内で“曇らされる”からだ。

 この“曇らされる”方はなんとか避けられると思っている。僕が……俺が潜ってきた修羅場は伊達じゃねぇってことをこの世界で示すだけだ!

 ……ごほん。ちょっと熱くなった。

 つまり今後の行動方針としては、十五歳でパラディファミリーのドンになっても十分にやっていける準備をしておくってこと。何も知らずに突然そんな目に遭えば“曇らされて”当然だ。『アル・コレオ』は正に悪役として作られた悪役だった、といえる。

 

 まずは基本中の基本、僕自身が強くなることだ。裏社会なんていうのは結局は力の世界。他にも絶対に必要なことの仕込みはしつつだけど、魔法ってやつを使えるようにすることからだ。そう考えるとちょっと楽しみにもなってきたな。

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