第2話 青天の霹靂

 午前中は何事もなく、無事に務めを果たすことができた。

 YouTubeの撮れ高的には物足りないかもしれないけれど、有隣堂で問題が発生したら本末転倒だからこれでいいのだ。


 そして、昼。

 店員たちが交代で昼食に出かける時間帯。


 店員たちがごっそりいなくなったものの、僕の隣にはあのかわいい女性店員がいてくれるから特に心配はない。


 そう考えていたが、どうやらその考えは甘かったらしい。


 店に入ってきた一人の女性客が、書棚の方には目もくれずにレジカウンターへと直行してきた。

 年齢は四十代後半か五十代に見える。なかなかふくよかな体型で、紫色のシャツと黒いチノパンをピチピチに着こなしている。

 パーマをかけた茶髪や真っ赤な口紅に加え、首にかけたギラギラでジャラジャラの太い金属アクセサリーたちが彼女を人一倍派手な見た目に飾り立てている。


「ここの所長は?」


 いきなりの高圧的な問いに、僕の隣の若い女性店員は怯えて戸惑った。

 僕はすかさず女性店員の前に出た。


「所長というか、今日は私がここの店長ですが」


 女性客は眉間にシワを寄せてグイッと僕の顔を覗き込んだ。

 思わず仰け反る僕をしばらく見つめた彼女は、鼻から大きく息を吐き出してから身を引いた。


「あら。何なの、このしゃべる鳥は? フクロウのくせにインコみたいな色をして」


 インコみたいに派手で悪ぅございましたね。まぁまぁまぁ、たしかにミミズクの色ではないですけれども。

 僕のふっくらボディは鮮やかなオレンジ色で、耳に見える羽角うかくはとてもカラフル。あ、この羽角が僕のチャームポイントね。

 それと、左右で色が少し違う大きな目も特徴の一つかな。


「私はブッコローと申します。フクロウ科ではありますが、フクロウではなくミミズクです」


「へぇ~。あなた、ミミズクなのね。えっと、ブ……ブロッコリーさん?」


「ブッコローです」


「ぶっころ!? なんて物騒な! 今すぐ通報します」


「え、ちょ、ちょ、ちょ、待って!」


 ヤバッ! この人、ノータイムでスマホを取り出したよ。もしかして通報するの慣れてるんじゃない?

 通報されたらマズい。僕は鳥類だから、人間の法に照らされると非常に厄介なことになる。通報される前に訂正しなければ。


「ぶっ殺じゃなくてブッコロー。R.B.ブッコローです」


 女性客のスマホを操作する手がピタリと止まった。

 僕を見る表情が少し柔らかくなった気がする。


「R&Bのブッコロウさん? あなた、歌手だったの?」


「R&BじゃなくてR.B.ね。リズム・アンド・ビートじゃなくてリアル・ブック。『真の本』とか『真の知』って意味なんですよ」


「あんた好きねぇ~。そんなに本が好きなのぉ? これ見よがしに本を並べちゃって、それだけでは飽き足らず、小脇にまで本を抱えちゃって。それって博識アピールかしら?」


 いや、ここ本屋!

 それに僕は本に関するキャラクター!

 ブッコローって名前はブック+オウル(ミミズク)が由来ですからね。


 まあ、いくら正直者の僕でも、思ったことをズケズケと言わない接客マナーくらいは心得ておりますよ。

 痛烈にツッコミを入れたい気持ちを抑え、接客にいそしむ。


「それで、お客様。ご用件は何でしょう?」


「あ、そうだったわ! すっかり忘れていたわ」


 おい!

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