(有)隣党しか知らないオバハン
日和崎よしな
第1話 嵐の前の静けさ
「みなさん、R.B.ブッコローさんを知っていますか?」
オールバックの真面目そうな店長の呼びかけに、一列に並んだ店員たちは口を閉じたまま頷いてみせた。
店長は目力のある顔で大きく頷き返すと、説明を続けた。
「R.B.ブッコローさんは『有隣堂』が運営するYouTubeチャンネル『有隣堂しか知らない世界』でMCをやっているミミズクです。そして今日、彼に当店で一日店長を務めていただくことになります」
そう、R.B.ブッコローこと僕は、YouTubeの企画として老舗書店「有隣堂」の一店舗で一日店長をすることになったのだ。
僕は店長に促され、自己紹介をする。
「はーい、みなさ~ん。ブッコローで~す! 好きなものは競馬。特技は数字をゴロで覚えることです。今日はよろしくお願いしま~す!」
大きな拍手が沸き起こり、歓声も上がる。「しゃべった! 本物だ!」とか、「キャー、かわいい!」とか、そういった嬉しい感想が聞こえてくる。
対する僕もいまの気分をすぐさま口に出す。
「ヤバッ、めっちゃ気持ちいい! デビューして間もない人気俳優がファンに囲まれたらときって、こういう気分になるのかなぁ。ねぇ、きっとそうじゃない?」
店長の野太い咳払いで歓声が止まり、僕の口も半ば強引に閉じさせられた。
店長が説明を続ける。
「えー、店長といってもね、彼の本分はおしゃべりマスコットですから、業務としては最前線で接客をしていただきます。基本的にレジ係を担当していただきますが、常に誰か一人以上が彼のそばに付いてサポートするようにしてください。いいですね?」
朝礼が終わると、店員たちはいそいそと開店準備に取り掛かった。
僕は会計台の上に座ってその様子を眺める。
「ブッコローさん、今日はよろしくお願いいたします」
「あ、はい。こちらこそ」
店長は僕といかにもビジネスライクな挨拶を交わすと、バックヤードへと姿を消した。
店長がいなくなったのを見計らって、開店準備を終えた店員たちが僕の元へやってくる。
「あのぉ、触ってみてもいいですか?」
最初に若い女性店員が声をかけてきた。童顔かつ小柄でけっこうかわいい。
そんな彼女に僕はテンション高めに答える。
「えっ、えっ? もちろん、いいっすよ!」
それから続々と集まってきた女性店員たちにもみくちゃにされ、その後、男性店員たちにももみくちゃにされた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます