第2話 私には死がないのです
「死ぬ覚悟はありますか?」
刃を向けられた美しい娘は問う。誰が聞いても可笑しな質問に笑いながら刃を振りかざす男に、容易く少女の命は奪われてしまう。しかし、笑っていた男が突然苦しみ倒れて、そのまま絶命してしまった。そして、「…99個目」と聞こえたかと思えば、死んだはずの娘はむくりと立ち上がり、冷やかな表情で男に向かって言う。
「覚悟がないなら殺さないほうがいいと言いたかったのですが…人の話は最後まで聞いた方がいいでしょう」
他にも多くの暗殺者たちがいたが、その理解できない出来事に逃げたしていった。娘は自分を庇って倒れた男の止血をしてやり、そのまま目を覚ますことを祈った。
しばらく経って男は目を覚まして、近くにいた娘の肩をつかみ驚いた様子で質問する。
「き、君は無事だったのか!?怪我は?あの者たちはどうしたのだ?」
娘は驚いて男と距離を取り、まずは安静にするように言ったのだ。しかし、男は自分のことなどどうでもいいというように、娘を抱えて近くの馬車に乗り込み、そのままある場所に向かった。
男は慌てたようだったが、娘は何が起こっているのかと状況を理解できなかったが、大きなお屋敷の門をくぐり、長い道の先に大きな庭、使用人たちが待っているのが目に入る頃には、男は貴族であったのだと理解した。
娘は経験上、貴族へ良い印象を持ち合わせてはいない。男を助けたが、少し後悔していた。貴族は傲慢で、偽善者が多いから。娘はどのように逃げ出すかを考えていた。
男は馬車が止まってすぐに娘を抱えて降り、執事長に向かって娘の怪我を見るように指示を出した。そして、治療後は服も綺麗なものを着せ、何か食べさせることも追加した。娘は皆が寝静まった後に逃げ出そうと思ったので、なされるがままだった。簡単に治療を終え、綺麗な格好に着替えさせられた後、空きっ腹にはこれがいいのよとメイドがスープとパンを持ってきたので、ゆっくりと食べた。数日ぶりの食事に、娘は嬉しさを覚えたことを忘れないだろう。
その後、話をしようと男の執務室に呼ばれた。彼は大きな怪我をしているにもかかわらず、大したことがないように、椅子に座っていた。
「さあ、お嬢さん話をしようか?」
そう言って男は娘にソファへ座るように促した。娘は頷き自分よりも大きな椅子に座る。執務室には椅子と机、ソファ、長机があり、壁に嵌め込み式の本棚がずらりと並んでいる。本当に使われているのかと思われるくらいに綺麗な部屋に居心地悪く感じる。娘は自分から話してはいけないと男の質問を待った。
男はしばらく娘を見つめていたが、ニコッと笑った後に話し始める。
「お嬢さん、いくつか質問をするから答えられるものだけ答えてくれるかい?」
「…わかりました」
「お嬢さんのお名前は?」
娘は一つ目の質問から黙ってしまった。自分を買う人間が娘を人形のように扱うので、名前で呼ばれたことがない。娘は自分に名前がついているのか分からずに、ただ黙ることしかできなかった。
「では、お嬢さん。僕が君に名前をつけてもいいかな?」
「…え?」
「名前がないと不便だろう?ちなみに私の名前フランツ・ハイネ・クランベリーという。気軽にフランツおじさんとでも呼んでくれ」
娘は驚いて声が出なかった。しかし、自分に名前をつけてあげるといった人は初めてだったので、その提案がすごく魅力的に感じた。
「…名前、つけて欲しいです」
娘は声を振り絞ってそう言った。フランツは嬉しそうに良かったと娘の前に膝をついた。娘は慌てるが、フランツは娘の手を取り、名を呼ぶ。
「では、お嬢さんの名前はレミリア・リリー・クランベリーだ」
そうして、少女は男の娘となった。
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