第3話 推し冒険者ユウキ登場


「ん?」


「むぉ? ほうひはんれふ?」


「とりあえず飲み込んでから喋ろうか……」


 アルタはとある人物の気配を察知し、天井を仰ぐ。

 そして口いっぱいに鮭おむすびを頬張り、口元にべったりと米粒を張り付けているムスビを見て、苦笑を浮かべる。


 特定の人物がダンジョンに侵入すると分かる、気配感知能力。

 もちろん全てを把握しているわけではないが、彼が気に入っている人物はマークしており、今まさに入って来たのだ。


 いわゆる推し冒険者。

 とてつもない成長速度や並外れた能力など、近い将来自分を倒してくれる者かもしれないと、常に動向を気にしているのである。


「よしっ、行ってこようかな。じゃあね、ムスビ」


「いっへらっはいまへー!」


 もごもごと口を動かしながら手を振ってくれるムスビに背を向け、アルタは走り出す。

 二十三層に到達したのも推し冒険者──十七歳の少年ユウキと、その仲間の四人組。

 現役の高校生ということもあり、若くして成功しているにも関わらず、奢ることなく頑張ってるのだ。


 これは推さないわけがないと、彼は上機嫌な様子で二十三層に向かう。


「っとと……危ない危ない」


 今日も彼らの活躍を見させてもらおうと階段の所に行くと、近くの岩の上に置いてある水晶玉から、ユウキたちが唐突に現れる。

 瞬間移動はアルタだけの専売特許ではなく、発展した人間にも可能な技術。

 彼らはワープポイントと呼んでいる。


「よし、行くかアユミ、カズナ、メイ。今日は三十層までいけるといいね!」

「「「はい!」」」


 ユウキは三人の女性に声をかけ、改めて得物の両手剣の状態を確認し、先陣を切って歩く。

 一列になり、後ろには杖使いのアユミ、弓使いのカズナ、格闘術を使うメイの順番の隙がない陣形。


 どちらから襲われてもいいようにしっかりと対策しているが、未知のダンジョンを歩く時には当然の備えでもある。


「この先にいるのは確かゴブリン中尉軍だったか……」


 別ルートから先回りするアルタは、天井付近の横穴に身を潜め、開けた場所にいるゴブリンたちを見下ろす。

 なぜ中尉なのかは言うまでもなく、数多の種類がいる彼らにいちいち名前を付けるのが怠いから適当に拝借したのだ。


 深層にいけばいくほど連携力が上がり個々の強さも練度が高まるので、決して油断はできない相手である。


「ゴブリンたちか……僕が道を切り開くから、援護を頼む!」


「グゲギャッ!!」


(うおっ、すげぇ連携だな……)


 しかしユウキが部下の雑魚ゴブリンをばっさばっさと薙ぎ払い、メイが彼の背中をカバーして、取り溢したものをアユミとカズナが魔法と矢で蹴散らす。

 独断専行しているようにも見えるユウキだが、背後にいる仲間を信頼しているからこそできる行為なのだろう。

 一体、また一体と、瞬く間に命が落ちていく。


 そんな息の合った連携プレーで瞬く間にゴブリン中尉軍を壊滅させると、周囲には彼ら以外には呼吸している者がいなくなり、死体だけが転がっていた。


「ふぅ……みんな、怪我はないかな?」


「はい! ユウキ君こそ、大丈夫?」


「僕は大丈夫。それじゃあ、魔石を拾っていこうか」


 四人は手際よく死体を漁り石ころを抜き取って、水の魔法で血を洗い流す。

 アルタもそこまで詳しくはないが、魔石には様々な用途があると聞いており、トラブルでもない限りは回収していくのは知っている。


「そろそろ次の階層に向かいたいね」


「そうね」


 袋に詰めて軽量化の魔法をかけたところで、四人が先に進んだのを確認し、アルタもこっそりと追いかけることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る