ぬいぐるみの結末
井澤文明
2023/3/7 ██通り
※前作『ぬいぐるみの送り主』から読むことをお勧めします。
***
中学生活最後の期末試験を迎えていた石黒祭と金剛和臣の二人は、今週の火曜日に最後の試験日を迎える予定であった。
一番苦手な社会のテストがあることで陰鬱な気持ちになっていたらしい金剛は、大きくため息を吐きながら教室に着き、自分の席へと向かっていた。一方の石黒は放課後にテストのことなど気に留めていないようで、足取りは周囲の生徒たちより軽い。
担任教師が教室に入る。三月になり、暖かい日々が続いていたが、まるで真夏日の炎天下を歩いてきたかのように汗を流していた。顔色は悪く、服も朝一とは思えない乱れ具合だった。
その姿を見ただけで、試験の準備をしていた生徒たちは「何かいけないことが起きた」のだと察知したようで、教師が言葉を発する前に教室は静まり返った。
「今日は期末テスト最終日だったと思うけど、ちょっと色々あってな。テストは明日に伸びたから、今日はこのまま帰っていいよ。親御さんたちには事情、説明してあるから」
それだけ言い、教師はテストを受けるために集まっていた生徒たちに帰るよう促した。生徒たちは皆、訳もわからず困惑していたが、テストが延期され、帰っても良いと言われたためか教室には徐々に活気が戻り、一人一人と帰宅し始めた。
「何があったんだろう。急に帰っていいよだなんて。このままテストなくなったりしないかな〜」
「まあ、その可能性もなくはない」
まだ教室に着いたばかりだった二人は、まとめる荷物がなかったのもあり、すぐに教室を出て帰路につく。
「ねえ、祭さ。今日の先生が言ってた『事情』が何か、知ってたりしない? いつもの推理とかで」
「うーん、どうやろ。なんとなく予想はできるけど」
石黒が住んでいるマンションは金剛の家と大通りを挟んだ場所に位置しており、学校から十五分ほど離れた場所に位置する交差点で、二人はいつものように別れようとした。
普段であれば一方の家に行き、ゲームなどをして遊ぶことであるが、今日は『いつもと違う』こともあり、すぐに帰宅することを話し合わなくともお互い、理解していた。
信号機が青に変わるまで、二人は待つ。道路を渡る石黒を金剛は見送ろうと思っていたのだが、そんな二人の背後に背の低い人影がゆらりと揺れる。
「あ、いた〜君でしょ。イシグロくん、だっけ」
妊婦だった。小さく膨れた腹から、
彼らを見上げる瞳には狂気が満ちている。
突如、現れた少女に金剛は混乱し、言葉を失っていたが、一方石黒は冷静に彼女を見つめた。
「ありがとうね」
「なんで僕の名前、知ってるんですか?」
「なんか、君のことを知ってる人から教えてもらった」
「あなたの元カレ?」
「そんな訳ないじゃん〜」
少女はケタケタと笑う。
状況をうまく飲み込めていない二人がなんとか理解しようとしている間に、少女は「じゃあね〜」とだけ言い、その場を去ってしまったのだった。
***
その後、それぞれの自宅に帰った二人はクラスメイトの少年が外出時に無惨に惨殺されたニュースを聞かされた。
噂によれば、臓物は原型がわからないほど、ぐちゃぐちゃに刻まれたとのこと。
「祭、今回の事件になんか関わってるでしょ」
その晩。二人は通話を繋げながらオンラインゲームをしていた。
金剛の問いに、石黒は言葉を濁す。
「まあ、今回は事が事だから、いつもみたいにしつこく聞かないけど───」
FPSゲームをしていた二人は、自分達のチームが勝利したことため、小さく喜びの声をあげた。
そして、元の真剣な雰囲気に戻る。
「あの妊婦さん、誰から祭のことを聞いたんだろう?」
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最終編集日:2023年3月8日 11:20
ぬいぐるみの結末 井澤文明 @neko_ramen
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