ぐちゃぐちゃにする妖精

久河央理

第1話 それは、妖精の仕業

 心がぐちゃぐちゃになった日の翌朝は、決まって私の部屋も荒れていた。


 それは別に、私が自暴自棄になったからではない。覚えていないわけでもなく、やっていないからだ。高校からは、やけくそにさえなっていない。


 では、誰がやったのか。何が起こったのか。


 その答えにはちょっぴり困ってしまう。

 正体については、「あれかな」と目星をつけられている。だって、ほぼそれのせいにしか思えないのだ。こんな不可解なこと、そうでしか説明がつかない。





 ふと気づけば、今日もまた部屋がぐちゃぐちゃになっている。

 だがいつもと違って、現在進行形で荒らされていた。


『えぇっとぉ、まずはコレでしょ〜。あとはアレだから、こっちだっけ〜?』


「え」


 ありえない。


『わわっ見つかっちゃった! でも、いっか!』


 目の前で部屋を荒らしているのは、背中に羽をつけた小さな人――妖精なのだ。


「何、してるの?」


『準備だよ!』


「準備? 一体、何の?」


『キミに必要な準備さ! おっと、急がなきゃ急がなきゃ! アレはこっちで、次はあっち!』


 何が用意されているのか、わからない。


『キミは寝て! 笑顔でお見送り、だよ!』


 そう言って、全く見せてくれなかった。





 朝。目を覚ますと、やっぱり部屋はぐちゃぐちゃで。


 唯一きれいな机の上には、小さな包みと寄せ書きの色紙。それと、思い出の品々があった。


「今日は、そっか……」


 思い出して、気分が塞ぎそうになる。

 けれど、写真の中の笑顔に頬が緩んだ。


「よし!」


 笑顔を準備して、家を出る。





 ――どうして、部屋がぐちゃぐちゃに?


 正直、まだまだ、あの答えには困ってしまう。

 原因も正体もわかってしまったからこそ、今度はどう答えていいかわからない。


 だって、君は信じるだろうか。悪戯好きの「妖精」という存在を。


 でも、私はきっとこう言うだろう。


「妖精の仕業かなぁ」


 私のそばにいる妖精は随分と世話好きで、あまりにも大雑把なのだけどね?

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ぐちゃぐちゃにする妖精 久河央理 @kugarenma

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