うつだったオレが異世界の勇者になるようです〜認知行動療法で無双する〜

旅人

第1話 夢の世界

小さい頃から僕は駄目な人間だった。


頭も悪く運動もできない、ちんこも短小だ。根暗な性格と短いちんこから小学校からずっといじめられ鬱病になった。


そこから家に引き篭もった。


何度も死にたいと思ったが今ものうのうと生きている。


親に迷惑をかけて生きていくのが段々と苦しくなってくる。


そして今日は定期的に通っている病院に行く日だ。病院では認知行動療法という治療法を受けているが聞いただけではどういう治療法なのか全く分からなかった。そして治療を続けている今でも何の意味があるのか分からない。


外に出るのに胃がキリキリと痛みを上げる。


それを我慢して何とか病院へと辿り着く。


「よく来ましたね。宇津井さん」


「は…い…」


何とか返事を返す。しかし他人と二人きりの空間で声を出す事はかなり辛かった。吐き気を感じる。


「どうですか?妊娠行動療んほぉぉぉは?アナルに効いてるでしょう?」


病院では美人な先生と会話をした。先生は顔は美人だけど話は全然面白くなかった。


帰り道、限界を迎えたのかもしれない。僕は死のうと思い海へと向かった。


死んでいる最中にも死にたいと苦しむかかもしれない。精神的苦痛より外的苦痛の方が良いと思い作業中に何も考えられないように苦しい死に方として溺死を選んだ。


最も苦しい死因として焼死があるが火を使うと目立って助けが来るかもしれない。そして最悪死ねずに救われてしまうかもしれない。そんな事されればたまったものではない。こっちは死にたくて死んでいるのだから。


夜の海なら誰の気にも止められずに死ねるだろう。コスパも良いし、家族に迷惑もかからない。


そして僕は夜の海に飛び込んだ。


+


目を覚ますと遠くに天井が見えた。


どういう事だ?僕は海で自殺したはず。


そして目の前にはドレス姿の絶世の美女。


僕はここが死後の世界だと感じた。僕はオカルトは信じない主義だったので驚いた。オカルトがあるなら俺のことを救ってくれると思っていたから。


しかし、残念だ死後の世界があるなんて…。やっと苦しみから解放されたと思ったのに…。


ドレス姿の女性は僕に手を差し出し立ち上がらせてくれる。


「異世界へようこそ、勇者様」


彼女は異世界と言った。何言ってんだコイツ異世界なんてあるわけないだろ。


「勇者様、今この世界は大変な事になっているのです。どうか助けて下さい!」


+


強制的に話を聞かされた。


どうやらこの国は他の国から攻撃を受け危機に瀕しているらしい。国の危機だと感じた王家は代々王家に伝わる禁術である勇者召喚を行い僕を召喚したらしい。


嘘乙。


だから嫌なんだ。人間はすぐ嘘をつく。そんな事信じられるわけないだろ。


今日は疲れただろうから寝るようにと部屋に通された。寝られるならとっくに寝ている。


+


次の日、僕はスキル鑑定というものを受けた。勇者召喚したら自動的に付いてくるとか言っていた。


僕のスキルは…認知行動療法だ。


周りの人が騒ぎ出す。


聖職者っぽい人は「初めて見たスキルだ」と言っていた。


僕はこの時悟った。異世界なんていう非現実的な事を宣うこの世界は…僕の夢なのでは無いだろうか?と。


あの後何かしらミスを犯し、死ねずに昏睡状態で眠っているのではないか?と。


そう思うと腑に落ちた気がした。


僕の知っている言葉なら夢でも出てくると思ったからだ。


そう思うと何だか心が軽くなった。胃の痛みや頭痛、吐き気が治っていく。


+


僕はすぐに王様の下に連れて行かれた。


「お前のスキルは使えない。地下牢にぶち込んでおけ!」


最初の方は親切に接してくれていた王様が冷たい態度でそう言い、僕は地下牢に入れられた。


どうでもいい。何てったてこれはただの夢だから。


さっさと夢なんて醒めないかな…。


+


王は怒っていた。


「折角敵国の魔術師10人を生贄に勇者召喚をしたというのに何だあの男のスキルは!」


黒いローブを被った年老いた男が答える。


「今回は失敗という事でしょう。しかしまだ魔術師は残っています。次の勇者召喚で質の良い勇者を召喚すれば良いのです」


+


牢屋の中ではずっと寝ていた。夢の中で寝るなんて不思議だなと思ったが所詮夢なので気にしない。


どれくらい経ったのか分からないが僕は外に出される事になった。


馬車で護送され戦場に放り出された。血の匂いが鼻腔を刺す。


僕と同じように護送された人達がどんどん出て来る。


男が大声で指示を出す。


「お前達にはこの砦を落として貰う。死にたくなければ戦え!」


そう言って男は自軍の中に戻っていく。


僕達が固まっていると一人の男が逃げ出す。


「こんな所で死んでたまるか!」


すると風の刃が男を切り刻んだ。


死体から血が流れ出す。


夢って結構グロいんだなと思い俺も歩いて別の方向に歩いて行った。


死んだら夢が醒めるかなと思い態と逃げる素振りを見せた。


案の定、魔法が飛んできた。


しかし魔法は俺にぶつかると何事も無かったかのよう消えていく。まるで泡沫の夢のように。


どうやら夢だから僕の都合の良いようになるらしい。これでは夢で良くある死んだら目が醒めるが出来ないじゃないか。


そうであればあの砦に入って殺して貰おう。そう思い砦に入る。


しかし攻撃は当たるが効かない。剣で斬っても体は切れておらず矢が刺さってもポロッと落ちる。痛みも衝撃すら無い。


幽霊みたいな状況になってしまった。


仕方ないので砦の外に出る。


周りを見渡すと僕と同じく牢から出された人達は皆んな死んでいた。唯一生き残った少女は足が捥げており呻いていた。


うぇー気持ち悪い。そして可哀想という感情が湧き上がった。


よく見ると顔が可愛かったので足が捥げて無ければ良いなーと思っていながら見ていると、さっきまで無かった足が何事も無かったように生えていた。まるで足が切断されていたことが夢だったように。


少女は訳が分からない様子で顔を上げる。


僕も訳が分からない。


少女と目が合う。気まずい。


「よ、良かったね」


僕はそう言ってすぐに離れようとした。良かった夢の中だと普通に話せる。胃が縮むような痛みは無い。


しかし少女は足を触って確かめると立ち上がる。


「待って下さい。貴方が…治してくれたんですか?」


「ち、違います」


勘違いをされてしまった。夢でも勘違いって起こるんだね。


+


あの後生き残ったのは俺達だけになってしまったので一緒に行動する事にした。


僕は心の中で女の子を求めていたのだろう。だから夢に反映された。


夢の世界…悪くないかも!


彼女もどうやら勇者召喚に巻き込まれたらしい。僕は夢の中でも設定を大事にするタイプだったようだ。


これから何処に行こうかと迷っていると、彼女から提案があった。砦の方の国に行こうという提案だ。先程までいた国は危険らしい。牢屋に入れられたしね。


ということで戦争相手の国に行く事になった。


でも歩くのめんどくさいな。夢なんだから場面変換自動でやれよ。そう思ったら突如くらっとなる。


周りを見渡すとそこは森だった。隣を見ると少女もちゃんといる。


少女も何が起こったのか分からない様子で混乱しているようだった。


これで分かったがやはりこの世界は俺が作り出した夢だ。


僕が何かを望めばどうにでもなる世界。


…。


この世界なら僕は普通に生活できるかもしれない。自分は世界に必要とされてないと思わなくてもいいかもしれない。


僕はこの世界に希望を見出していた。


とりあえず住む場所が欲しいな。


そう思った瞬間目の前に家が現れた。


少女を手招きして家の中に上げる。


彼女は何が何だか分からない様子だ。


でも僕の夢の住人に「此処は僕の夢の中です」って言うのもなんか変だなと思い僕のスキルという事にした。


+


そしてこの家で暮らし数年が経った。


僕の鬱はこの数年で大分良くなったと思う。


夢の世界で自信がつき勇気を出して彼女に結婚して下さいとお願いした。


長い間一緒に暮らしていた甲斐があったのか遂に結婚する事ができた。


生まれて初めて幸せというものを感じられたかもしれない。


しかしそんな幸せも長くは続かなかった。


彼女が買い出しのために街に出た時、何者かに誘拐されてしまったのだ。


許せない。僕の世界で勝手な事するなんて。


そう感じた瞬間またもや僕は瞬間移動していた。


彼女は誰かと話し合っているようだった。


心の中で彼女の下へ行きたいと感じたからだろう。夢だから。


+


「此処は一体何処?」


「よく来た、囚われの人間よ」


「貴方は?」


「私は魔王サタンだ」


「何で私を此処に連れて来た…んですか?」


「お前に聞きたい事があったからな」


「何を?」


「貴様と一緒にいた男、そいつのスキルを教えろ」


「言うわけ無いじゃないですか、夫のスキルなんて」


「いや、正確には確認だ。あの男のスキルは『認知行動療法』ではないか?」


「!」


「その反応…やはりそうか」


「それが何だって言うんですか?」


「問題だ…いや、大問題だ!」


魔王は急に語気を強める。


「大昔にそのスキルを持った人間がこの世界に来た時、この世界は滅びかけた」


「か、彼は世界を滅ぼすような人間じゃありません!」


「人間性などどうでもいいそのスキルを持っている事が問題なのだ」


「どういう事ですか?」


「あのスキルは認知した事を現実にする事ができるスキルなのだ。もし、この世界をあの男が夢だと思っていたらこの世界は夢になる。言ってしまえば思い込みで世界を変えられるスキルなのだよ」


少女はあ、と何かを思い出したような顔をする。


少女の足が治った時、瞬間移動した時、家が出現した時、考えれば考える程思い当たる節が出てきた。


「そんな危険なスキルを持っていて良いはずが無い。お前はその為の人質だ」


「でも──」


と言い募ろうとした所で件の男が目の前に立っていた。


+


「彼女を返せ!」


僕は勇気を出して悪そうな奴に言う。


ゲームで見た事がある。魔族というやつだ。


「動くな。この女を殺されたくなければな」


魔族は少女を手下に任せ、此方に歩いて来た。


「貴様は生きていてはならぬ…此処で死ね!」


一瞬で距離を詰めて来る、


虚空から出現した剣で僕の腹を刺した。


「ガハッ!」


血が滴る。痛みを感じる。でもこれも所詮夢だ、直ぐ治る。


思った通り腹の傷は無くなっていた。


僕も武器を持たないと、と思い。剣を出現させる。


夢の世界だから出て来るよね。


普通は抵抗しようとすれば彼女を殺されるだろう。でも彼等は動かない…いや、動けない。


何故なら、これは僕の夢だから!


見せ場で悪役は動いてはいけない。


僕は近づき思いっきり剣を振った。取ったと思った。


しかし、魔族は剣で防いだ。


だが、剣を防いだ魔族の首は…地に落ちていた。


僕は彼女を掴んでいる下っ端魔族も倒し、彼女を解放する。


「凄いね、魔王を倒しちゃった」


彼女は僕にそう言う。


「これで貴方は勇者だ!」


その言葉が引き金になったのかは分からない。しかしその瞬間、何故かと、そう確信した。


+


僕は目を覚ますとベットに寝ていた。


「此処は…」


「宇津井さん、大丈夫ですか?自分の事は分かりますか?」


「はい」


「良かったです。海で溺れているところを海上保安庁が発見して保護してくれたんですよ」


僕はやはり自殺に失敗したらしかった。


「幾ら鬱病でも自殺は良くありません。自分の生命について、よく考えて下さいね」


と言うと医師は部屋から出て行った。


「やっぱり夢だったか…」


残念と言うかほっとしたというか、いろんな感情が流れ込んでくる。


今日見た夢の事はきっと忘れてしまうだろう。しかしあの夢の事を僕は忘れたく無いと思った。


「僕も前を向いて生きよう…」


そう思えたのはあの夢のお陰だから。僕はこの不思議な夢の経験を生かして人生を歩んで言う事感じる事ができた。


僕は夢の中で勇者になった。だったら現実でも勇者のような強い人間になろう。


そうだ、あの夢を忘れないように名前をつけよう。


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