チャウダー

深川夏眠

chowder


 ぼくはパパと、とおにいちゃんと四人でドライヴしていて、なぜだかおにいちゃんとケンカになって、うそっこのママに車からおりろって言われた。パパはちょっとオロオロしてたけど、けっきょくアクセルをふんで、三人だけで家にむかっていった。

 パパはきっと二人をおろしたらむかえにきてくれるはずだから、その場所にいようと思ったんだけど、遠くで雷が鳴りはじめて、こわくなって、ぼくは休めそうなところをさがして林の中を歩きだした。そうしたら、この家があったんだ。

 大きくて古めかしくて、しずまり返った木の家だ。ドアをたたいても、だれも出てこなくて、カギがかかっていなかった。きっと空き家だろう。ぼくはひとしきり探検してから二階の真ん中の部屋で休憩した。ベッドは少ししめっていて、ちょっぴり気持ち悪かったけど、横になったらストンと眠ってしまった。

 目が覚めたら雨がザーザーふっていて、窓から見下ろすと庭がグチャグチャぬかるんでいた。

 そこへ一台の車が入ってきた。パパじゃなかった。知らない車だ。この家の人が帰ってきたんだ。ぼくはごめんなさいってあやまって、パパが来るまでここにいさせてくださいって頼もうと考えた。おなかも空いてきた。

 運転席からおりた大柄な男の人は、トランクを開けて荷物を引っぱり出した。その人も、敷石に放り出された大きな包みも、あっという間にびしょぬれになってしまった。

 男の人はシートでくるまれた荷物をかつぎ上げるまぎわ、ヒョイと顔を上げた。目が合った。ああ、怒られる……と、ぼくはギュッと首をすくめた。けれど、バタンと家のドアが開いて、閉まって、男の人が動き回る靴音や金属製のものがカチャカチャ言う音なんかが聞こえてくるだけで、別に何も起きなかった。もしかしたら、この家に迷子がフラッと入ってきて休んでいくのは珍しいことじゃないのかもしれない。

 しばらくすると、鳥が絞め殺されるようなギェーッていう声が響きわたった。そして、シーンと静まりかえった。その後、男の人がキッチンに移動して料理を始めたのがわかった。なんとなく、湯気の温かい感じや、調味料の匂いがただよってきたからだ。ぼくの胃袋がグーッて鳴った。

 どのくらい時間がたったか、階段を上る足音がして、ぼくがいる部屋の前でピタッと止まった。男の人は何かをコトッと置いて、ちょっとだけぼくの反応を探るふうな間を持たせてから、トトトッと軽快に下へ戻っていった。

 ぼくは扉を開けた。床にトレーがあって、ほかほかのスープ皿とナプキンを添えたスプーンと、パンがひとかけ。

 ぼくは感謝の祈りを短くささげて食事を運び、部屋には食卓がなかったから、代わりにドレッサーテーブルにのせ、鏡に向かってありがたくいただいた。

 チャウダーは薄味で、いろんな材料が入っていて、なんだかグチャグチャしていた。



               chowder【END】




*2023年3月書き下ろし。

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チャウダー 深川夏眠 @fukagawanatsumi

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