ボスと俺のオフィス・ラブ ーまおよめ外伝ー【KAC20233参加作品】
あらフォウかもんべいべ@IRIAM配信者
第1話で完結 平和なオフィスライフは"ぐちゃぐちゃ"に
◇
春うららかな今日この頃、東部から平和なオフィスに異動して来てからもう一年か…。
「…キャアアアアア!」『…bang!…』
今日も呑気に平和ボケを堪能し、パソコンに向かいデスクワークを勤しんで「…イヤァアアアア!」『…bang!bang!』…。
勤しんでいれば、突如として絹を裂いた「…Fickt euch!(クソッタレ!)」『…bang!』…。
絹を裂いたような、ドイツ語混じりの悲鳴「…Hau ab!(出ていけ!)」『…bang!』…。
悲鳴と罵声、そして銃声が「…Geh mir aus den Augen!(視界から消え失せろ!)」『…bang!bang!…』…。
…ボスの部屋から轟き、何事かと思ったのも束の間…、同僚達が浮き足立つのは言うまでもない。
やれやれだ、とりあえず銃声は7発である事を確認。よかった、1発だけならお通夜だったかもな?HAHAHA!
さて、彼女の所持している拳銃は、SIG SAUER P230の38口径モデル。
7発入りのマガジン分は撃ちきったようなので一安心だ。
俺の知る限り、彼女は予めチャンバーにもう1発を装填する習慣はない。
とりあえず暴発、思い詰めた結果の何かでないことは確かだ。HAHAHA!
恐らくだが、彼女の苦手なアレが出て、気が動転してつい拳銃に手を伸ばしてしまった…そんな予想をしながら立ち上がり、突然の出来事に動揺する同僚達を押し退け、彼女のいる部屋へと駆け出した。
「…いやぁあああ!やってもうたわ!…た、大尉!?大尉はどこや!?た、助けて?はよこっちに…」
「おう、派手にやってるね?」
呼ばれるまでもなく、ショボい旧正月の祝いが行われたボスの部屋に参上…うん、なんだいこの惨状は?HAHAHA!
「た、大尉ぃ…助けにくるのが遅いんや!今頃来てどないすんねん!?」
助けを求めておいてそれかい?
利き手に撃ち尽くしてスライドロックの掛かった拳銃を握りしめたまま、とってもチャーミングなジト目に涙を浮かべながら訴えられても説得力なんかないぜ?HAHAHA!
「おいおい、旧正月の祝いにしちゃショボいぞ?それに今はもう春先だぜ?」
「うっ、うっさいわ!」
「「HAHAHA!」」
「暖かくなってきたからなぁ、ボスの頭がイカれちまったのかと思ったぜ?」
「いや、それな、常に頭のイカれとるあんたにだけは言われとうないわ!」
「「HAHAHA!」」
「それでボス、あんたが悲鳴を挙げるのはわかる…だが、銃声は余計だぜ?」
「そ、そらあれや………ごめんなさい」
涙を浮かべたチャーミングなジト目を伏せがちに、頭を垂れるボスがかわいいものだ。
被害状況を確認しようか、まずはボスから。
「全く、跳弾したら危ないだろ?…怪我はない?」
「…ごめんなさい…大丈夫、うちは平気やから…」
「身体はね?美しくてかわいいボスが傷物にならなくてよかった…それで、メンタルの方は無事かい?」
「…怖かった、大尉…いきなりGがな、Gが出てきおったんや…せやからな、つい…怖なってやってもうた…」
子供かよ、ボスはG苦手だからなぁ…。
それにしてもさ、よくもまあ動き回るG相手に、小型拳銃にしては反動の強い38口径モデルで仕留めたものだよ?
本来であれば人間相手に撃つものを、Gに向かって撃てば…いくらなんでもオーバーキル過ぎるだろ。
こりゃミンチよりも酷い、"ぐちゃぐちゃ"になってもなお、何とか原型を留める脚、触覚がピクピクと動いてやがる…こりゃ気持ち悪い、余計に引き金が軽くなる気持ちもわかる。
「よしよし…まずは銃を置きな?ボスのお手手が低温やけどしちゃうぞ?」
「…とれへん、指が動かへん…」
全く、しょうがない…拳銃を握りしめた彼女の左手を取り、固まって震える指の一本一本をほどいていった。
彼女の手から解放された拳銃を机の上に置き、未だに震える彼女の左手を、両手で包み込んでいるうちに安心したのか、やがては震えも収まった。
「ありがとう…も、もう平気やから…」
大丈夫と言いつつも、まだ動揺は収まっておらず、頭の中は"ぐちゃぐちゃ"の様子。
ここは更に畳み掛けるか、きっと"ぐちゃぐちゃ"な頭の中もすっきり纏まるぜ?
彼女の左手を包み込んでいた両手を前触れなくほどき、一瞬の虚をつかれた彼女を俺は見逃さない。
即座に抱擁すれば無抵抗のまま受け入れてくれた…さ、ここで3つぐらい浮上した問題をどう処理しようか?
「アホ…同僚たちに見られとるで?」
まず一つ目。今日をもって、隠れて職場恋愛していた事をカミングアウトしないといけないね。そもそも時間の問題だっただけに、俺は彼女を尊重して秘密のまま守りつつも、半場開き直っていたからため息一つで済むことだ。
彼女の方はどうだろう?
「バカ…ウチラガカクレテツキアッテルノ…バレテマウヤロ?」
ボス、もう手遅れだよ…。
未だにバレていないと思っているようだが…、あんたがわかりやす過ぎてな、最近は同僚たちに気を遣われているんだぜ?
「ボス…もう三ヶ月ぐらい前からバレてるよ?」
「…嘘やろ?」
オーライ、ちょっと抜けているところがかわいくてたまらないね。
それじゃ、次の問題だ。
ボスの放った銃弾でフローリング床はダメージ加工を施され、跳弾した先の壁や本棚にめり込んだ鉛製のインテリアの小物を追加。
買ったら高そうな分厚いハードカバーのうち数冊の買取価格が暴落…あとは被弾して"ぐちゃぐちゃ"になり生命活動を停止したGが一匹…。
「…あかん、そんな事よりこれ…どないしよ?…うち、始末書かかなあかんわ…」
「書き方なら教えるぜ?」
「アホ、なんであんたに教わらなあかんのや?そんなん一人でやるわ…」
さて、ボスの自業自得とは言え、たった一人で恥と始末書を書かせるのはいただけないね。
熱い抱擁は終わり、ようやく落ち着きを取り戻したのだから、相変わらず素晴らしい効能であると証明されているね? HAHAHA!
…じゃ、俺も混ぜてもらおうか。
ホルスターから愛銃のマカロフを取り出し、スライドを引いて装填。セーフティーも解除し、ボスと同僚たちが驚いて躊躇したその一瞬。
『BANG!『パリンっ!』…』
以前から気になっていた、ボスの部屋にある一見高そうな不思議な壺は、無惨にも粉々に砕け散った。
しかし、あんまり良い音はしないね?HAHAHA!
「たっ、大尉!な、何しとるんや!?」
「よう、これで仲良く始末書だぜ?」
「アホ!それな…、うちが元カレから貰った大事なもんなんやで!?」
「何で後生大事にとってあるんだよ!?風水的に最悪だろ!?」
「いや、あれや…なんか勿体なくて…一応、思い出の品やし?」
「その彼氏とは何で別れたんだっけ?」
「………」
答えは遊ばれていた。
俺が彼女と初めて出会った日、ベロンベロンに酔っ払った彼女の口から赤裸々に語っていた事を記憶している。
そんなクソッタレな元カレの思い出なんか"ぐちゃぐちゃ"に、粉微塵にしてしまえ!HAHAHA!
「それにこれは贋作だ…信じてすがるのも素晴らしいが…そう言うことだ。ボス、いい加減目を覚ませ?」
「………アホ、でもなんかすっきりしたわ…ありがとう…大尉…」
「おう、これにて一件落着だ。…さて…お前ら、ボーッと突っ立って見てないで手伝ってくれよな?」
こうして、平和なオフィスで起こった騒動は、色々と問題になったものの…"ぐちゃぐちゃ"と粉微塵になったG、贋作だった過去のしがらみは天に召されて解放した。
同僚たちには口裏合わせをしてもらい、時系列を"ぐちゃぐちゃ"に捏造し、Gの発生源を贋作の壺と言うことにした。
その時はGに対抗しうる殺虫剤がなく、心理的に嫌悪感を覚えた結果、咄嗟に俺が銃を抜いて発砲した事にした。
仕留め損ない、不規則な挙動で逃げるGに動揺したボスも同じく銃を抜き、発砲してついには仕留めた…殺虫剤がなかったが為に起こった悲劇と言うことで結論は纏まった。
俺とボスは仲良く二人で一週間の自宅謹慎&3ヶ月の減俸処分と相成った。
さて、密かに同棲している身としてはご褒美そのものか…。
お互いに忙しかったからか、部屋の手入れは行き届かずに"ぐちゃぐちゃ"だったが、ちょうど良い機会だからと綺麗に片付け、すっきりとしたものだ。
また、あまりにも暇だったからか…。
お互いに"ぐちゃぐちゃ"になりながらも繋がる、最高に愛の深まる退廃的な日常をも送った訳だ。HAHAHA!───。
◇
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