2023.4.8 疲労と公園の話
始業式の日は子供の登校班に保護者が集合。子供会費の集金をしたりして、会社に遅刻する。毎年そうだ。他の作業もあるため、昨日は会社をお休みした。
おかげで、昨日は「小説書きさんと、ふたり」を少し書き進めたり、プロットを再整理したりできた。
余裕が少しできると、書くんだな。平日お休みっていいよね。会社を定期的に休みたい気持ちでいっぱい。
とりあえず、今日の子供会の初の会合で、子供会関連の忙しさのピークは終わった。後は、体操着のゼッケン縫いなおしたり、教科書に名前書いたり、新学期の書類を書いたり……うへぇぇ。
ところで、疲労の限界でも、桜が散る前に花見がしたかったので、先週の日曜は近所の桜スポットを四十分ほど子供と散歩しようと決めていた。
「明日はお花見リベンジするぞ~~」
と夫が言い出したとき、私は内心「ええ~~!? 近所でいいだろ、やることいっぱいありすぎて吐き気がしてるぐらいなのに!」と思い、近所の桜コースを推した。
しかし夫は、少し離れたところに行こうとする。
この日を逃すと夫と休みが合わなくなるし、家族で出かけられるのが祝日だけになってしまう。せっかくだからちょっと頑張ろう、そのかわり私は車で寝る、と宣言し、家族三人、早朝から「昭和記念公園」に出かけた。
駐車場は長蛇の列。先に遊んでいていいというので、夫だけ駐車の列に残り、私は子供と先に車を降りて別の入り口から公園に入った。しばらくすると夫から「駐車場、先払いだった。手帳を持って迎えにきて」というラインが……。
子供が障害者手帳を持っているため、駐車料金はタダだ。今すぐ行って、なんとか駐車料金を節約せねば。
しかし……。
広い!
遠い!
迷う!
ここはどこ!
「ここは自転車専用道路ですよ」と自転車の親子に注意されながら、「ヒト用道路はどこ」と彷徨い歩く。子供は転び、もうここから動かない! とばかりにうずくまる。夫と再度合流できた時点で疲労困憊、「寝たい」しか頭になかった。目の前にあるボートにのって水の上をぷかぷか浮いたら、気持ちよく疲れがとれそうだ。
「ボートがあるよ」
と言うと、案の定全員ノッてくれた。
三十分間の強制足漕ぎダイエット開始であった。
優雅じゃない!! ボートは全然、優雅じゃない!!
罠だった!(誘ったの私だけど! 楽しかったけど!)
公園内を歩いたり少し遊んだりしたあと、
「三十分だけ寝かせて」
といって、結局東屋で寝かせてもらった。息子が東屋の天井の蜘蛛の巣がすごいと騒いでいた。
起きたら……。鳥の声と、綺麗な花に囲まれていて、疲れがとれるとこんなに視界がクリアになるんだな、と驚いた。
川を流れる桜の花びら、色とりどりのチューリップ、網のハンモック(トランポリンのような子供の遊具)、長い滑り台、その隣で食べられるチュロスや熱いコーヒー。
満喫! 春を満喫したよ!
帰り、子供に「なにが楽しかったか」を聞いたら、返事なし。
「お花? チューリップ? 大きな木? ハンモック? 滑り台? チュロス?」
返事がしやすいように、思い出せるだけのワードを並べていく。しばらくしてから息子は言った。
「蜘蛛の巣が、すごかった」
蜘 蛛 の 巣
いや、あったね。東屋の天井に、蜘蛛の巣。まさか、あれが一番の感動?
「蜘蛛の巣の大都会みたいだったねぇ!」
蜘 蛛 の 巣 の 大 都 会
瞬間、私の頭の中に、銀色に光る糸を道路として複雑に組み合わさった近未来的な都市が見えた。
子供すげえ……。そんなふうに蜘蛛の巣を楽しめるなんて、すごいよアンタ……。
「運転忘れちゃうでしょ。替わってね」
夫が言い出したとき、私は、自分の疲れ具合から、知らない場所での運転は今日はちょっとな……と思った。ここはどうにか運転から逃げよう。
「運転ビミョーだな。パパも疲れてるなら、コンビニで止まってちょっと寝ようよ。寝ていいよ」
「寝るくらいなら、替わって」
「起きててくれる?」
私が車の免許を取ったのは、夫がメンタルやられて症状が出た年で、何かあった時に運転を替わるために取った。イマイチ、新しい場所での運転が不安だったりして、隣に運転できる人がいて相談しながらでないと自信がない。
うっかり高速道路とか乗っちゃったら怖いし。今日は自分の判断力に、いつも以上に自信がない!
私の道の把握能力はポンコツだ。ナビがなければ家に着けない。
しかし、新しいナビ、同じところをグルグル回らされて夫が疲れてしまい、ちょうど一週間前も花見に行く途中で挫折した。それで今回のリベンジとなったので……つまり、ナビもポンコツだ!
今日の疲労度、運転するにはちょっとなぁ……。
「予備のバッテリーが切れた」
と夫が言う。
「予備のバッテリーって? ガソリン以外になにか要るっけ」
「車じゃない、俺のバッテリー」
夫も疲れたらしい。私が運転を忘れない為じゃなく、疲れたから替わって欲しいのなら、もちろん替わるけど……別腹の余裕がなくなった、というようなことを言い出した。別腹の余裕とは、余裕がなくなったと思ったときに作動する予備の余裕の事らしい。なんとなく会話が怪しいなと思ったら
「糖分に血管が足りてない」
と言い出した。
糖分に、血管が……???
糖分に血管が、足りてない……。
あ、この人やっぱ運転かわったほうが良さそう。
コンビニで停めて食べ物を買って少し休憩。運転を替わった。右折で車道に出ようとしたとき、大きな青い車が私たちを塞ぐように右に回り込んだ。
「なんだこの車!!」
夫はいきなり怒りだし、私が「いいよ! 行かなくていい!」と止める手を振り払って、文句を言いに助手席から出ていった。えええ。どうした夫。
……車道で他の車を止めた夫は、交通整理をするかのように、青い車先に行かせた? んんん?
戻って来た彼は、
「ウインカー逆に出してた」
と言った。
あっ……。
私がウインカーを逆に出していたらしい。青い車、なにも悪くなかった。ってか、悪いの私だった……。
夫はいつになく、ふうふうと沸騰したような様子を見せた。
「小説書きさんと、ふたり」で逆切れするあおいを書いたけど、この人もこうなることあるんだなぁ、なんて思いつつ、男の人がこうなると力では止められないからなぁ、これが最初で最後ならいいけど、増えてくるなら対策必要かもなぁ、なんて思っていると、
「ごめん、ちょっと薬飲む」
といって、薬を飲んだ。興奮を抑える薬らしい。
飲むと効きすぎてしまうから半錠に割ったものを最近処方されたらしいが、その量でも効きすぎてしまうそうだ。
「薬効くまで、二十分ぐらいかかる……」
風邪薬やアレルギーの薬が効く瞬間なんて実感できないけれど、精神に効くタイプの薬は明らかに精神状態が変わって来るので、自分でどのくらいで効くかがよくわかる。
「どうしても眠気とかヤバそうだったら、早めに教えて?」
と優しい声で彼は言った。
ヤバそうです、と教えたところで、ヤバそうレベルMAXの人に運転替わってもらうわけにはいかない。この状態で夫に運転させる気はない。それくらいならどこか休憩できる所に停めて寝る。さっきまで疲れはあったが、もう眠気はない。完全に「最後まで運転する人モード」にスイッチが切り替わってしまった。
モードが切り替わると、疲れも飛んでしまう。
「最近、こんなんだよ。老害になりかかってきている。興奮しはじめると止まらない」
彼は一応躁鬱の診断がおりていて、夜は毎日睡眠薬を飲んで眠っている。一時期よりは鬱の症状が軽いが、やっぱり体調には波がある。
加齢のせいか、自分を抑える機能が弱ってきているようだ、とこぼす。
一時期よりだいぶいいので、油断してたな。疲れてたんだ。
薬が効いてくると彼は穏やかに私の運転上の相談に答え始め、雑談にも応えはじめた。
家に着いたあと、彼は穏やかモードから「今日の営業は完全に終了しました」モードになった。無表情で目が座っており、誰が話しかけても答えられない状態に突入。子供が心配して話しかけても微動だにしないモード。
「パパー? パパー?」
「パパは調子が悪くて、お返事ができないけど、聞こえてるし淳くんが心配してるのも伝わってるから大丈夫だよ。お返事ができないときに何回も聞かれるとつらいから、やめようね」と子供には説明をしておいた。
翌日、まったりしている時にこの日の話になって、「この人やばい。今なにか言ったら、キレられるかもしれない、って思ったんでショ……?」と聞かれた。
「それはちらっと思ったけれど、どっちかと言うと、それでキレたらこの人あとで落ち込むんだろうな、と思った。ココは私が大人になって、対処しないとな、ウン私カッコいい~~、って思ってた。だから最後まで運転したでしょ」
と答えた。
「正解!」
なにが正解! なのか知らんが、それはいつも、彼がしてくれていることでもある。
「いつもあなたがしてくれてるでしょ。私がキー! ってなってるとき、それおかしいよね? と思っててもスルーしてくれてるでしょ」
「あれ? わかってた?」
「わかるよ。ああいう時、『今のはおかしい。どうしてそうなんだ。正一時間問い詰めたい!』ってされたらホントにムリだから」
しかし、疲れるの早くなってるんだろうな。四十代、休憩を多く入れるようにしないといけない年齢になってきている。
老人の早寝早起きって、そうしないと保たないからそういう生活になるっていうのもあるんだろうね。
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