2023.4.7 孤独と、孤独を感じる能力と

 四月になりたての頃の事。子供が、「どうしたら、さみしい気持ちはなくなるの?」と聞いてくる。


 ぎゅーっと抱きしめてもダメで、トイレにまで、ついてきてほしがる。

 どうしたら、さみしい気持ちをなくしてあげられるんだろう。


 親が死んだ後も、孤独ではない生き方ができるようにしていってあげたいけれど。

(この前、どこでそんな言葉を知ったのか、「ぼくはひとり暮らしはしたくないんだよ〜〜」と言っていた。意識が将来に向き過ぎている?)


「人間はいつか死ぬ」とか「そのうち一人暮らし」とか、まだ考えないで、ただ楽しく遊んでいていいのに。


 親はもちろん考えるよ。「自分たちがいなくなった後に、より良く、幸せに生きていってほしい」という観点を忘れると、自分勝手な育て方をしそうで怖いし。


 でも、君はまだ八歳。


 大人でも耐えることが難しい「孤独」の問題に向き合うのは、まだ早いのではないか。


 一方で、そういう星の配置を持っているから仕方ない、とも思う。(死について考え詰める事がある配置というか、強く人に執着する配置というか)

 そして、この子に「さみしい気持ち」を感じる力があって良かった、とも思う。


 人と繋がろうとする本能が、ちゃんと働いてくれている。それがないより、あるほうが、人を大事にできる。


 孤独感に操られて、寂しさを埋める為だけに人と接するなら、本当に相手を大切にしているとは言えないかもしれないけど。


 大人でも難しい。

 私などは、孤独が極まるとダークサイドに堕ちそうになる。感情はどんなにダークサイドに堕ちようと、行為だけは堕ちないように、どうにか試行錯誤している……。(前に占い師に、「アンタはストーカーレベルに感情が濃いから、ソレは仕事や趣味に向けろ、人に向けるな」と忠告されたことがある。自分でも実感があるので、人に向けそうになったら創作活動に逃がしてる。そのおかげで健全に恋愛できている)


 本当の意味で、自分も相手も大切にできる人になっていってくれたら、と思う。自分の為に人を(相手の感情を無視して)利用しすぎることもなく、人の為に自分を犠牲にしすぎることもなく。「人も、自分も、同じように大事に」していってほしい。それが息子の本名の由来だ。


 私なんかより、この子のほうが、そういうのが出来る人間なのではないかと思うこともある。


 孤独を原動力に、自分をどう作っていったら他の人と関われるのかを試行錯誤する時間と経験は、「一方的な愛」じゃなく、「愛し合う世界」に人を向かわせると思うから、さみしい気持ちをどうしていいか分からないでいるこの子が友達や恋人を作って行こうとするとき、応援したい。


「お友達ができると、いいかもしれないと思うね。パパとかママじゃなくて、同じぐらいの年齢のお友達」

「ぼくって、おともだち、いないの?」


 ウッ……。


 他の子と遊ぶ姿をほぼ見ない。いつも一人で遊んでいるこの子には、そもそも「お友達がいる、いない」というのがあまりピンと来ていないようだ。

 まあ……なんというか、少し前まで、デイや学校に行って「お友達と遊ぼうとする様子はありますか」と聞くと、色々な子が遊んでいる場所に入っていって、その中で、一人で遊んでいることはありますね……」という返事が返って来るのが通常モードで、小学二年後半にして自分から他の子に話しかける様子を見た祖母が、「今日、他の子に、話しかけていたわよ!!」と大騒ぎするぐらいには、一人の世界にいる子なのだ。

 最近やっと、人に話しかけるようになった。さみしい、と言い始めたのと、ほぼ同時期かもしれない。


「ちょっと話しかけたり、たまに遊んだりする、そういうお友達はいるかもしれないね。大人になっていくと、もっと仲のいいお友達ができる事があるんだよ。話をきいて、わかるわかる〜、って思ったり、淳くん(仮名)のお話を聞いて、わかってくれたりするお友達。そういうお友達がいると、ちょっと違うかもしれないと思うよ」

「…………」

「例えば、ママとパパは、結婚していて、家族だけど、恋人でもあるんだ。でも、実は、お友達でもあるんだよ」


「ゲームって、いつか、楽しくなくなっちゃうの?」


 そんなことも聞いてくる。


 そういや、子供の頃お友達と遊んでいたのは、お友達が欲しいからじゃなかったな。単純に「友達と遊ぶのが楽しいから」だ。たまに大人びたことを息子が言うもので、つい大人の観点で返事をしてしまう。


 自分が子供のころ、この子のように、ここまでモノを考えていたかというと、もっとボウフラみたいな感覚で生きていたような気がするんだけど、……小学校低学年って、こんなに考えるものなのかな……。


 人とのコミュケーションに疲れたら、時々ゲームの世界に逃げてもいいからさ。ママは疲れたらそうしてるよ。


 そんな話を寝しなに、した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る