九話:連れ火祭りと魔法の花火 4/5

「今日は大変だな」

「全くだよ」


 私は早足に元の場所へと戻っていた。


 まだ演舞は続いているらしく、色とりどりの光が踊っている。


「周りを探せばいいのかな?」


 少し外周によりながら、周りを注視する。


 気を付けて見ていると、数人の集団が『花火玉保管所』と書かれた看板の方へと向かっていくのが見えた。

 花火玉、というとどんな構造なのかは分からないが、花火に関連するものなのだろう。


 考えてみれば、この辺りでは他に盗んで得のありそうなものは屋台の出し物くらいしかない。

 でも、そっちの方を見て回るのは時間がかかる。

 とりあえず、あそこの様子を見に行くのがいいかもしれない。


「向こうの方、花火玉があるんだって。もしかしたら、あの人達が花火玉を盗もうとしてるんじゃない?」

「ふむ、可能性は高いな。しかし、間違っている可能性もある」

「うーん、そうだけど……どうする?」

「私が別の場所を見ておく、というのがいいんじゃないか? 二手に別れた方が効率が良いだろう」


 すると、フィルがそう提案してきた。


「なるほど、確かにそっちの方が良さそうだね。じゃあお願い!」

「ああ、任せておけ」


 そう言ってフィルは私の肩から降りる。

 それを見届けた後、私は走り出した。


 人混みの中を潜り抜け、少し小高くなった丘の方へと向かう。

 立ててある手作りの看板を通り抜けて、前に見えてきたのは小さな小屋だ。

 『花火保管用に使用中』と書かれた看板が引っ付いている。


 少しばかり建付けの悪い小屋の中に、先程の数人が入っていくのが見える。


(やっぱり、合ってるのかな?)


 そう思って、扉をバンと開ける。

 ランタン一つが吊るされただけの薄暗い小屋の中、そこに居た四人は驚いたようにこちらを見ている。


 そして、その手の中にあるのはこぶし大くらいの大きさの球体。多少の大小はあるが、大体そのくらいのサイズだ。

 多分、あれが花火玉なのだろう。


「あんたたち、何してるの!?」

「う、うるせぇ! 誰だよお前! ――お前ら、とにかく逃げるぞ!」


 すると、その中の一人がそう号令をして、全員が走り出した。

 床に転がっている筒や花火玉の入った木箱を蹴とばしながら、走っていく。


「逃がさないよ!」


 私は、なるべく周りに被害が出ないように、土属性の魔法を使う。

 石のれきを足に飛ばして、躓かせる。


「ぐあっ!」


 私は魔力をめぐらせて身体強化を行い、その人物に向かっていく。

 体制を崩している彼の首の横を、ある程度手刀を入れる。


 すると、そのまま力なく倒れていく。

 下手に魔法を使うより、素人の無力化ならこっちの方が楽だ。


「おっ、お前、魔法使いじゃないのかよ!」

「多少近接戦には心得がありましてねっ!」


 声と共に、礫を額に飛ばす。

 そのままよろけた人物の首を叩く。


「クソがっ!」


 すると、一人がナイフを持って切りかかってきた。

 私はそれを身をひねって躱し、がら空きになった首に手刀。


「お……俺は悪くねぇ! そいつらが全部計画したことだ! 俺はやらされただけだ!」


 すると、残った最後の一人はそんなことを言い出した。

 随分都合がいいねぇ。


 まあしかし、そうは言っても縄があるわけでもない。

 つまり――


「……えーっと、でもとりあえず気絶してもらうよ?」


 私は礫を飛ばして、よろけている間に首に手刀。


「処理完了!」


 私がそんなことを言っていると、外からドタバタ音がしてきた。

 扉の奥から、また五人の人間が顔を出した。


 しかし、今度はチンピラではないらしい。

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