九話:連れ火祭りと魔法の花火 3/5

「これは……あの花火を使っているのか?」

「おおー、そうっぽいね」


 そこにあったのは、数人が集まって、花火を使った演舞のようなものをしているところだった。

 紫、黄色、赤と色が変化しながら、花火を手に持って動いたり、回ったり、フォーメーションを組んでいたりと、パフォーマンスを見せている。


 ついでに、後ろの方から音楽が聞こえてくる。

 後ろの方には楽器がおいてあり、そこで音楽を奏でているようだ。


 よく聞くと、音楽に合わせて動いているようにも見える。


「勝手にして大丈夫なのかな?」

「ああ、それなら大丈夫ですよ。あれは主催側がやっていることですから」


 私が呟くと、先程の男性がそう答えた。


「あ、そうだったんだ」

「わー! 綺麗だね!」


 カイルは目を輝かせて言った。


「そうだね」


 男性もそれを微笑ましく見ている。


「……そういえば、この花火って仕組みどうなってるんだろ」


 少し気になって、自分の手元にあるそれを見てみると、先端に赤色の魔石がついていた。

 加えて、先端の方には、下に行くにつれて別の色の魔石になっている。


 確かまず最初に火を付けると言っていたし、火が付いたら、この魔石が燃えて、光を放つ。それで、燃えていくにつれて下の方にも行って、そこから別の魔石に引火して――えっと、魔法が封じ込められてるのかな?

 その魔法と、魔石そのものの魔力を使って色が変化、みたいな感じだろうか。


「結構小さいのに複雑……」

「どうかしたんですか?」


 すると、男性がそう聞いてきた。


「ああいえ、これの仕組みが少し気になったんですよ」

「もしかして、魔女さんなら分かるんですか?」

「はい、まあ大体は」

「そうなの? 凄いね!」

「あはは、このくらいならそんなでもないよ」


 私は笑って謙遜した。


 そんな折、私の視界の端に少し変なものが映った。

 見るからに怪しいローブをつけ、不審な挙動をしている若干小柄な人影。

 ちらりと覗くフードの中には、何かのお面を被っているように見えた。


 ……うん、めちゃくちゃ怪しい。

 見た目だけで疑うのは良くないかもしれないが、一度見てみるに越したことはない。


「すいません、ちょっと向こうの方見てきます」

「ん? どうかしたんですか?」

「はい、まあ少し……カイルくんも一回、バイバイ!」

「え? 行っちゃうの?」


 私はそんな疑問の声をよそに、花火を次元収納魔法でしまってから、あの人影を見失わないうちにそちらの方へと向かった。


「良かったのか? 行ってしまって」

「こっちの方が今は先決かなって。まあでも、すぐに戻れるよ!」


 ◇


 怪しい人影をバレないように追っていたのだが、少しすると、それは今は誰もいないらしい、ある屋台の裏へと入っていった。


「盗もうとしてるじゃん!」

「ふむ、そのようだな」


 私は、その姿を見て、それを阻止すべく走り出した。


 屋台の裏の方へと回ると、先程の人影がいた。


「ちょっと! 何してるの!」


 私が声をかけると、その人影はビクリと動き、その場で止まった。


「あっえっとその……ごめんなさい!」


 すると、少女のような声がそのお面の下から聞こえてきた。

 よく見ると、コウモリの魔物のお面を付けているらしい。

 ……チョイスが謎だ。

 しかし――


「えっ、何か盗みに来たんじゃないの?」

「ぬ、盗み……? いや、私はただ屋台の裏が気になって来ただけで」


 人影は困惑したような声を出した。


「……本当?」

「本当だよ! 何かするわけじゃないって!」


 彼女はお面を外して、素顔を露わにした。

 特に何か変なところは見当たらない、少女だった。


「……あー、つまり、私の勘違いってこと?」

「ま、まあそういうことになるのかな……でも、私も怪しい動きはしてたし、悪かったよ」

「確かにそうだけど……ごめんねー、疑って」


 私はそう言って手を合わせ、謝った。


「うん、大丈夫。まあ、これからはフードとお面を被って変な場所に行くのはやめようかな……」

「あはは、まあそうだね……」


 私は苦笑いで返した。

 フィルは、なんだか横で面白そうに笑っている。

 ……何か言いたいことでもあるなら言ってみろ!


「あっ、そうだ。それで言うなら、私よりも断然怪しい人がいたよ。恰好は割と普通だけど――数人で、何かを計画してた。私は怖くて逃げたけど……」


 困ったようにポリポリと頬を掻きながら彼女は言った。


「えっ? また別に居たの?」

「うん、それこそ何かを盗むーって言ってたよ。えっと――確か、花火演舞をやってた方に向かってたかな」

「……じゃあ向かおうかな。情報提供ありがとね! あと疑ってごめん!」

「あ、気にしてないからいいよ。それじゃあね」

「じゃあね!」


 私はそう言って走り出した。

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