九話:連れ火祭りと魔法の花火 2/5

「ふむふむ、精霊に作ってもらったアクセサリー……」


 目の前にあるのは、左右非対称に作られた不思議なアクセサリー。

 綺麗な銀色をしているものや、青色のもの。そしてその多くには宝石が嵌め込まれている……が、これは本物なのかな?


「精霊に作ってもらった、というのは本当らしいな」


 精霊は魔力が多い場所に出てくる、生命なのか魔力の塊なのかよく分からない存在だ。

 そんなよく分からないものに頼んだら、それはよく分からないものが作られるだろう。

 これみたいに。


「まあでも珍しさはあるよね」

「そうだろ? 買ってくかい?」


 すると、さっきまでいなかった店主さんがひょっこり出てきて、そう訊いた。

 やけに美形なその顔と、とがった耳から、エルフであることが予測できる。


 ちらり、と値段を見ると――一つ銀貨七枚。


 ……少し高くない? というか、これをつけるくらいならご飯にお金を掛けたいね!

 さっき食べ終えたソーセージとか、そういうやつに。


「えーっと……遠慮しておきます!」

「はは、そうかい。残念だね」


 彼は少し本気で残念そうにした。

 ……売れてないのかな。いやまあ当然と言えば当然かもしれないけど。


 ともかく、私はそれをよそに、また別の場所に向かった。

 人混みの中、横の屋台を眺めながら前へと進んでいく。


 今度目についたのは――お面屋さんかな? 木でできた枠組みに、色々なお面がぶら下がっている。

 なんだか、脇に花火も置いてあるようだ。


 そういえば、最初の人は『お面を着けて花火を持って魔物を追い払うのが起源』と言っていから、これのことだろうか?

 猫のお面やら、コウモリのお面やら、狼の魔物のお面やら色々と面白い見た目をしたものが多い。


 お面を手にとってみると、それもまた木製だった。

 それに、塗料やらを塗って装飾しているらしい。


 今持っているのはちょうど、黒色の猫のお面だ。


「ほらフィル、お揃い」


 そのお面を軽く自分の顔に当てて、私はそう言った。


「……お揃いというにはそもそも種族からして違うだろう」

「それもそうだね」


 私はお面を外して笑った。


「そだ、折角だから花火買ってこう。伝統らしいし、そうしないと勿体ないでしょ」

「それは確かにいいな」

「すいませーん、この花火とお面欲しいんですが」

「ん? ああ、合計……銀貨六枚だよ」


 さっきのアクセサリーより安――いや、考えるのはやめよう、うん。


「分かりました」


 私は財布を次元収納魔法から取り出し、渡した。


「あんがとよ。これは先端の部分に火を付けると、起動する。絶対人とか家には向けないように気をつけてな」

「分かりました。ありがとうございまーす」


 私は花火を受け取って、そこを後に――しようとしたのだが、少し気になることが目に映った。

 私の隣でずっと物欲しそうにお面を見ている少年がいたのだ。


「……」

「どうした?」


 なぜ止まっているのか、なんて分かっているはずのフィルがそう言った。

 心做しか顔は笑っているようにも見える。


「フィル、よく言うね……」


 私はフィルを半目で睨んだ。


「そこの君! お面、欲しいの?」

「え? あ……うん、欲しい」


 私が訊くと、少年はそう言った。


「どれが欲しいの?」

「えっと……あの、狐のやつが欲しくて……」


 すると、少年は狐のお面を指さして元気よく言った。


「店主さん! その狐のお面もください!」

「え?」


 少年は少し困惑している様子だ。


「ん? まだ買うのか。分かった、銀貨二枚だよ」

「はーい」


 私はそう言ってお金を払い、お面を貰った。


「これ、上げるよ」


 私はそう言ってできるだけ優しく微笑みかけた。


「……いいの?」

「うん、これくらいは別にいいよ」


 私がそう言ってお面を渡すと、彼は戸惑いながらも、それを自分に顔につけ、紐を後ろで結んだ。


「お姉さん、ありがとう!」

「どういたしまして。楽しんでね!」


 私がそう言って手を振って、去ろうとしたところで奥の方から大人が走ってきた。


「……あ! カイル! 一人で行くなっていっただろ?」


 少し息が上がっているその男性は、先程の少年に向かってそう言った。


「あ、ごめんなさーい」


 反省しているような、していないような微妙な返事をしながら、少年――カイルはそう言った。


「あ、もしかして、魔女さんが見ていてくれたんですか?」

「いえ、ただそのお面を上げただけですよー。別にそれ以外これと言って何かをしたわけではありません」

「そうだったんですね……でも、ありがとうございます。カイル、ちゃんとお礼は言ったか?」


 父親らしいその男性は、カイルの肩をポンポンと叩いて訊いた。


「うん! ありがとうって言ったよ!」

「そうか、それなら大丈夫だ」


 男性はカイルに向かって微笑んだ。


「魔女さん、ありがとうございました」


 そう言って男性は頭を下げた。


「いえいえ、大したことではありませんから」

「あそうだ! あっちの方言ってみたかったんだ。お姉さんも付いてきて!」


 少年はそう言うと、奥のここよりも少し騒がしい方へと駆けていった。


「……す、すいません」

 申し訳なさげに笑いながら、男性は私に向かって言った。


「あはは、元気なんですね」

「あの、付いてきてもらっても大丈夫ですかね? 色々と申し訳ないんですが……」


 男性は頭を下げながらそう頼み込んできた。


「全然、大丈夫ですよ」


 別に今は用事もないからね。

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