八話:魔法使いのお茶会 4/4
「そうだ、冒険者と言えば、白金級でもあるイリアさんはどうだったんですか? 気になります」
なんだか少し期待の籠もった眼差しでメレイさんが私に聞いた。
「え? 私ですか? そうですね……まあ単純に、魔法が好きだったから、というのが一番大きいですかね」
私はそう言って小さく微笑んだ。
「最初は戦場で大魔法を扱う魔法使いに憧れたりもしましたけど……途中で気づいたのは、そういう憧れよりも、ただ魔法が好きなんだなーってことでした。もちろん憧れもないわけではありませんけどね」
「へぇー、そうなんですね……確かに、私も魔法は好きでしたし、それだからこそ続けられたのかもしれませんね」
レイランさんは少し考え込んで、そう返した。
「凄いですね……それでそこまで凄い魔法使いになれるなんて」
「まあ、私より凄い魔法使いなんて沢山いますからねぇ。私も全体から見れば上の方ですけど、言ってしまえばただそれだけです。ただ旅をしているだけで、なにか成しているわけでもありませんし」
これ本心だ。実際、本当にただの旅人をやっているだけだしね。
それに、あんまり調子に乗ってると、自分より凄い人が出てきて打ちのめされるのは明白だからね……私は調子に乗らないのだ!
「……それで白金級なのか。凄いな。少し羨ましいくらいだ」
すると、ニクスさんがそんなことを言った。
レイランさんのそれとは違い、本当の嫉妬が含まれている……ような気がする。
私がそれの返答に少し迷っていると、メレイさんが先に口を開いた。
「確かに、イリアさんはどうしてそこまで魔法を極めようと思ったんですか?」
「ま、まあ極めているというほどでもありませんけど……さっき言ったように、好きだったというのと――他には当時の私の心の拠り所が魔法と、その勉強だった、というのもありますね」
と言っても、もちろん昔の話だ。
「そ、そうだったんですね……すいません。なんだか変なことを訊いてしまったみたいで」
「いえいえ。大丈夫ですよ」
「そういえば、なんで冒険者になったんだ?」
すると、今度はニクスさんが質問をしてきた。
「えーと……ロマンというのもありましたけど、まあ単純に、お金、ですかね。それ以外に稼ぐ宛がなかったわけではないですが、どれも続きませんでしたから」
あの時代は一番地獄だった気がするなぁ……
「それに、始めてから一年もしないうちに旅に出ようかと考えまして。それで冒険者は都合が良かったので、今の今まで続いています」
「へぇ、そこは普通なんだな」
興味深そうにニクスさんが私に訊いた。
「そうですねー。まあ既に魔法の技術自体はそこそこあったので、できたという感じです。魔法学校にも通っていましたし」
「なるほどな。でも、その年齢でよくそこまで技術を磨けたな、師匠がいたのか?」
「いえ、大体独学か、学校で教わりました。親も普通の家でしたし、少し珍しいですよね」
「そうだったのか……正に天才、ってやつだな」
ニクスさんは顎に手を当て、そう呟いた。
うーん、天才と呼ばれると少し語弊があるような気もする。
何も楽に学んできたわけではないし、楽に生きてきたわけでもないから。
「いえ、そうでもありませんでした。まあーとにかく大変でしたね。上手くできないので苦しいですし、そもそも、魔法しかやることができずに友達もできませんでしたから」
「……そうは言っても、他の人と比べれば楽だったんじゃないのか?」
今度は、怪訝そうにニクスさんが私に訊いた。
「ニクスさん?」
すると、レイランさんはまるで宥めるような言い方で、名前を呼んだ。
「す、すまん……」
……何が起きてるのか、分かるような、分からないような。
私の予想が合ってるなら、大体何が起きてるのかは分かるけど。
「あー、その。私は負けず嫌いで……その歳で白金級、しかも優秀な魔法使いということで、まあ正直、嫉妬してんだ。すまんな」
すると、ニクスさんはとても言いづらそうにそう言った。
やっぱり、大体予想は合っていたらしい。
まあでも、それを自分で言ってくれただけありがたい。
「よく言えましたー」
すると、今度はレイランさんが少し茶化すようにそう言った。
「……レイランさんは私の母親かなんかなのか⁉」
ニクスさんは、若干顔を赤らめながら、そう言って椅子から立ち上がった。
「……でも実際、いつもそういう感じですよね?」
「そうですよ。それに私、ここの最年長ですし。おほほ」
レイランさんはわざとらしく笑う。
「あはは、三人は仲が良いんですね」
「ま、まあ付き合いはそこそこになるからな」
まだ少し恥ずかしげなニクスさんが言う。
「気持ちは分かりますよ。私も昔、自分より魔法が上手い人に嫉妬もしましたし、自分と比べて、みたいなこともありました――まあでも、みんな案外苦労してるんですよ。もちろん、中には最初からある程度上手い、なんて人もいますし、人を平気で見下すような人も沢山いますけど」
なまじ実力があるだけ、人を見下すことに抵抗がない人間は何人も見てきた。
「私も、そりゃ成長は早かったですけど、早い分色んな苦労が一気に押し寄せてきました。そんなものですから、この歳で旅人やってるんですよ」
私は少し自嘲気味に笑った。
「……そうか、そうだよな。みんな苦労してんだもんな」
はぁー、と大きくため息を吐くニクスさん。
「私も、もっと成長したいならもっと頑張れって話だしなぁ」
彼女は天を仰いだ。
「つか、なんで年下に人生観語られてんだ。
ニクスさんはパクリと一つお茶菓子を食べてから、気合を入れるようにそう言った。
「わ、私もいますからね! 学術的なことは任せてください!」
ニクスさんが言うと、メレイさんは胸をどんと叩いてそう言った。
「仲間が居れば、なんだかんだなんとかなると思いますよ。私も親は味方だったので、なんとかなりましたし」
私はそう言った。
気がつけば、紅茶はなくなっていたし、私のお菓子も全て食べられていた。
「おや、ちょうどお菓子もなくなってしまいましたね。なんだかちょうど話のオチも付きましたし。終わりにしましょうか」
「あ、確かにそうですね」
「そうだな……すまんな、イリアさん。勝手に色々言っちまって」
「いえいえ。私も昔そうでしたし、人のことは言えませんから」
「……はぁー、歳逆転してんのかって言いたくなるな。まあありがとよ。面白い話聞けたぜ」
ニクスさんはもう一度ため息を吐いて、立ち上がった。
「あ、お片付けは私がやっておきますから、お三方は先に帰っていて構いませんよ」
「え? 私も手伝いますよ?」
と、メレイさん。
「私も、勝手にお邪魔してそのまま帰るのも申し訳ないですし」
「……じゃ、じゃあ私も」
帰る気満々だった様子のニクスさんは、もう一度席に座った。
「あらあら、ニクスさんはそのままでもいいんですよ?」
「だから、母親かっての!」
「あはは、やっぱり仲がいいですね〜」
私はくすくすと笑ってそう言った。
――
――――
「……ふわーあ、結局、私は蚊帳の外だったな」
テーブルの隅で、一人……いや、一匹、フィルは呟いた。
◇
『イリアの日記帳』
――今日は魔女四人でお茶会をした。
まるで、おとぎ話の中の魔女会とか、そういうのみたいな感じで少し面白かった、なんて思ってしまった。
あの町が特殊だったのもあるだろうけど、あそこまで魔法使いで集まる機会も中々ないし、楽しかったね!
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