八話:魔法使いのお茶会 3/4

「おお、いいんですか? じゃあご一緒させてもらいますね」


 ◇


 それから、お三方が、予備としてあったらしい椅子を私の分として用意してくれたり、私のお菓子も出したり、お茶を準備したりして、準備ができた。


「そういや私の名前は言ってなかったな。私はニクス。よろしく、イリアさん」

「よろしくお願いします」


 私は、そう言って彼女――ニクスさんの差し出してきた手を握った。


「あの、その猫ちゃんは何かあるんですか? なんだか黒猫で、いかにもな感じですけど……」


 フィルの方をちらちらと見ながら質問してきたのはメレイさんだった。


「んー、まあ何かあると言えば――」

「確かに、魔女のお供としては、これ以上無いくらい相性がいいな」


 私が最後まで言う前に、フィルはわざとらしく割り込んできた。


「――しゃ、喋ることくらい、ですかね」

「え? 喋れるんですか? 一体どうやって……」


 不思議そうにしながら考え込むレイランさん。


「まあ色々ありまして……そっちは大体そんな感じです。喋る黒猫ですね」

「よろしく頼む。フィルスミト・レイラーだ。フィルでいい」


 フィルは、猫ながらその首を軽く下げた。会釈のつもりだろう。


「そ、そうなんですね……」


 メレイさんは驚いた様子でそう返していた。


「へぇ、流石に凄いな。これは知らなかった」

「あ、今お茶入れますねー」


 驚くニクスさんをよそに、レイランさんがお茶を入れてくれた。


「ありがとうございます。では遠慮なく……」


 軽く感謝を述べて、小綺麗なカップに注がれたそのお茶の匂いが私の鼻腔を包む。

 独特な茶葉の香りと、琥珀色をしているそれは、そこから察するに紅茶らしい。


 それを飲むと、ほんのりと体が温まるような感覚が残る。


「美味しいですね。もしかして、近くのドルチェというお店で買ったものですか?」


 紅茶のたぐいもあったので、そう予想してみた。


「お、よく気づきましたね。そうなんですよ」


 どうやら、合っていたらしい。

 これはレイランさんが買ったものなのだろうか?


「やっぱりそうなんですね。私もあちらの方でお菓子を買っていて、そこで他にも魔法使いの方いるーと言っていまして」

「あ、そうだったんですね」

「ですです。あ、お菓子の方は皆さんのと合わせて、私も出しちゃいますね」


 私は次元収納魔法からお菓子の紙袋を取り出した。

 すると、三人、特にニクスさんは椅子をがたっと揺らして驚いている様子だ。


 ……えっと、なんかごめんなさい。


「あ、すいません。驚かせてしまったみたいで」

「いえ、凄いなと思いましてね」

「あはい、私も、そんな一瞬で使えるのは初めて見ました」

「す、すまん。流石にそこまでは初めて見たからな」

「まあともかく、これは皆さんも食べていいですよー」


 私はそう言って、空いているお皿にそれを空けた。


「おう、助かる」


 そして、私はまた彼女らの用意した茶菓子を食べてみることにした。


「それじゃあ私は失礼して……」

「私も少しもらうとしよう」


 と、フィルも食べるらしい。

 猫の手でお菓子――の皿に手を伸ばしている。


 私が手に取ったお菓子は、一見普通のクッキーだ。少し模様の入った、四角いクッキー。

 食べてみると、まず甘さが来る。


 サクッとした食感のそれは、食べるとふわりとアーモンドの味がした。

 中にアーモンドが入っていたらしい。

 良いバランスで砂糖とバターが入っており、素直に美味しい。


 ……ちなみに、フィルの方は猫らしく、口だけで食べている。

 まあ手先は普通の猫だし、しょうがないね。


「これも美味しいですねー」

「それもあの店のやつさ。あそこはみんなのお気に入りだからな」


 すると、ニクスさんが少し自慢げに言った。

 あの店は人気があるらしい。確かにパンも美味しかったし、当然ではあるかもしれない。


 そして、私は再度紅茶を啜る。


「そういえば、なんの話をしようとしてたんでしたっけ?」

「えーと、確か魔法の学び始めとかじゃありませんでした?」


 メレイさんの疑問に、レイランさんが答える。


「ん、多分そんな感じだな」

「あ、そういえばそうでしたね。それで、皆さんはどうして魔法を学ぼうと思ったんですか? 私は……単純に偉大な大賢者様方に憧れた、というありがちなものですけど」


 すると、メレイさんはみんなに話を振った。


「いえいえ、始め方にありがちも何もありませんから」


 レイランさんは優しく微笑んだ。


「やっぱり、レインさんはもちろん、ミスラさんも憧れですね! 本で見たあの魔法陣の完成度には感動しましたね……」


 と、メレイさんは感慨深げに言った。

 ミスラ、というと魔法陣に造詣の深い大賢者だっただろうか? 確かに、私もあの人の魔法陣は凄いと思った。私はあそこまではどうやっても無理だろうなぁ。


「あそうだ、レイランさんはどうなんですか?」

「私は色んな魔道具を見て、こんな魔道具を作ってみたい、と思って始めましたねー。魔道士は憧れだったんです。それに、今も魔道具作ってますしね」

「へぇ、そういえばレイランさんは魔道具作成が大体だもんな」


 と、興味深そうに頷くニクスさん。


「そういうニクスさんは?」

「まあ見ての通り、冒険者家業さ」


 ニクスさんはローブの下に着た軽めの防具を見せてそう言った。


「父さんが冒険者で、さらに色んな冒険譚を見てて……それで、憧れだったのさ。特に魔法使いは」

「そうだったんですねー」


 レイランさんはうんうんと頷いた。


「やっぱり、ドラゴンとか強大な魔物を、魔法で一撃! っていうのはロマンがあるよなー」


 ニクスさんは腕を組んでうんうんと頷いている。

 それには――流石に同意してしまう! 私も実際、そこに憧れて冒険者になった側面はあるし……


 メレイさんも頷いて同意している様子だ。


「そうだ、冒険者と言えば、白金級でもあるイリアさんはどうだったんですか? 気になり

ます」


 なんだか少し期待の籠もった眼差しでメレイさんが私に聞いた。

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