八話:魔法使いのお茶会 2/4

「いえいえ、面白い話でしたから。それでは失礼しますね。ありがとうございましたー」


 私は小さく微笑んだ。


「ありがとうございましたー」


 ◇


「うん、美味しいね。やっぱり、ああいう店は穴場だねー」


 先程買ったパンを頬張りながら、私は町中を歩いていた。


 表面は結構サクサクしており、中身は若干の甘みと共にふわっとした食感になっている。

 また、かけられたトッピングも甘くて、サクサクとした表面の美味しさをさらに増している。


「……そうなのか?」


 すると、フィルはそんなこと知らない。といいたげな表情で言う。


「そうだよ? 有名どころって、並ぶ割には味がそうでもないことが多くてね。それで、ああいう場所って趣味でやってることが多いから、一つ一つがよく作られてて美味しいってこと」

「……そういうものか」

「そういうものだよ」


 どこかまだよく分かっていない様子だけど……まあいっか!


 そんな他愛もない会話をしながら、買ったパンを食べていると、横の空き地で、何やら人が集まっているのを見た。

 テーブルが一つと椅子が三つ、三人いるようで、何やらお茶会でもしているようだ。


 ……しかし、その三人は全員女性なのだが、彼女達は全員杖を持っているし、二人はいかにも魔法使いといった格好をしているが気になる。


「……魔法使いのお茶会みたいな?」

「今の状況を的確に表した言葉だな」


 私が感想を口にすると、フィルもそんな返答を返してきた。


「イリアも混ざるか?」

「え? まあちょうどお茶とお菓子は買ってたけど……わざわざ私が入って邪魔したら悪いし、別にいいかな?」


 私がそう言って去ろうとしたところで、一つの話が聞こえてきた。


「いやー、やっぱり若さとはいいものですね。私は少し歳ですから、お二人が少し羨ましいくらいです」


 一見普通の女性の格好をした、大人びた女性である彼女だが、その脇にある杖から魔法使いであろうことが予測できる。


「あ、いえ……そんなに凄くないですから。私より凄い人も沢山いますよ。例えば『緑銀の魔女』さんとか。私より若いのに、あれほどなんて」


 落ち着いた雰囲気の彼女がそう言う。

 そうかそうか、緑銀の魔女ですかい。


「ほら、呼ばれているぞ?」


 フィルがニヤニヤと笑いながらそう私に言う。


「……えーっと、それでは私は退散させていただきます」


 私は、そそくさとそこから去ろうとした。

 どうしてみんな私の二つ名を使いたがるんだ!


「あ、その方の噂は私も聞いたことがありますよ。お若いのに凄いんですってね」

「冒険者界隈の方でも、少し有名だったなぁ。白金級だったっけ? 確か白い髪に緑メッシュの魔法使い――ん?」


 すると、私の姿が見えてしまったのか、今度はローブを着て、髪を短くカットしているボーイッシュな女性の方からそんな声が聞こえた。


「え? 誰か――あ! あの人です!」


 メレイ、と呼ばれた人物が急に立ち上がり、そう叫んだ。


「バレてしまったな」


 心底面白そうにフィルは言った。


「……そうだねぇ」


 私は天を仰いで言った。

 ……まあ、呼ばれてしまったからには、別にあの輪に入ってもなんら問題はないだろう。


 私は顔を下げ、くるりと回って彼女たちの方へと向かってみることにした。


「あ、すいません。大声を出してしまって……」


 すると、ハッとした様子のメレイさんが謝った。


「いえいえ。まあ私も少し気になっていたところでしたから、大丈夫ですよ」


 まあ実際、気になってはいたわけだしね。


「あ、どうも。なるほど。あんたが緑銀の魔女さんか」


 ……そ、その呼び名はむず痒いからやめて欲しい。


「こんにちはー」


 手をひらひらと振りながら、大人びた女性が挨拶をした。


「お、でもみんな魔法使いで、女だな。奇遇じゃん」


 そう言って彼女は面白そうに笑った。


「確かにそうですねー。あ、私はレイランと言います。よろしくお願いしますね」


 すると、レイランと名乗った彼女が丁寧にお辞儀をした。


「あ、よろしくお願いします。私はイリアって名前です。ところで、皆さんはなんで集まっているんですか? 仲が良かったりするんですか?」


 私は軽く会釈を返して、気になった疑問を投げかけてみた。


「まあな。大体そんな感じ。ここは結構色々都合が良い町だし、なんかちょうど魔女が三人もいたもんで、たまにーにこうやって一緒にお茶会してたりするんだよ」

「あ、そうだ。よかったらご一緒にどうですか? ちょうど皆さん共通点もありますし」


 今度はレイランさんが手をぱちんと叩いて、そんなことを私に提案した。

 確かに共通点もあるな、と考えて、面白そうだし了承してみることにした。


「おお、いいんですか? じゃあご一緒させてもらいますね」


 ◇


 それから、お三方が、予備としてあったらしい椅子を私の分として用意してくれたり、私のお菓子も出したり、お茶を準備したりして、準備ができた――

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