八話:魔法使いのお茶会 1/4

 ある日の昼下がり。


 横からは、水路を通る水の音が聞こえてくる。

 時間帯の問題か、人通りのあまり多くない少し粗雑な石レンガでできた道を歩きながら、私は少し不思議な建物を見つけた。

 それはあまり色彩のない石レンガで組まれた家だ――まあ色彩がないのは当然といえば当然だけど。


 ともかく、その家自体は普通だが、掛けてある札が不思議だ。

 ――小さな町のお菓子屋 ドルチェ。

 下の看板にも同じことが書いており、看板の方には加えて『お茶、お茶菓子も扱っています』と書いていた。


「あれ……お菓子屋さん?」

「だな。小さな町で、とは少し珍しい。もう少し大きな町であれば見かけるが」

「……あんまり小さな町、とかハッキリ言うものじゃないよ?」


 私が言うと、フィルはそっと目を逸した。

 それなら最初から言うんじゃないよ!


「まあいいや。お菓子気になるし、入ってみる?」

「いいんじゃないか?」


 と、言うことで入ってみることにした。

 扉を開けると、カランカランとドアベルが鳴り、私の鼻にはふわりと甘い香りが漂ってくる。


「いらっしゃいませー」


 すると、明るい青年の声で挨拶が聞こえてきた。

 カウンターを見ると、そこに居たのは狼の顔をして、エプロンを着ている人物だった。


 どうやら、ここの店主は獣人らしい。

 少し珍しいけれど、旅をしていれば少しくらいは会う種族だし、私にとってはそこまで驚くことでもない。


「こんにちはー」


 店の中をぐるりと見てみると、小さめの茶菓子や色々なパンが置かれていた。チョコレートが挟まれていたり、知らないトッピングがかけられているものがあった。

 中には……えーっと、マカロンだったっけ? ともかく、見覚えのあるものもある。


 商品であろういくつか並んだ紙袋の横に、展示用のお菓子が置かれているようだ。


 うーん、どうしようかな。


 しばらく見回ったり、考えてから、とりあえず知っているマカロンを一つ手に取り、ついでに茶菓子っぽいクッキーも一つ手に取る。

 あとは、私甘いですよオーラを醸し出している、白いトッピングが掛けられたパンを手に取る。


 これはすぐ食べるようにしよーっと。


「……フィルも何か買う?」

「そうだな……ふむ、お茶でも買っておこう」


 私が小声で訊くと、フィルは私の肩からひょいと降りて、奥にあるお茶っ葉の袋を取ってきて、私に渡した。


「おっけー」


 私はそれをカウンターの方へと持っていった。


「すいませーん。これお願いします」

「はい、分かりました……銀貨七枚になります」


 カウンターにそれを乗せると、何かメモを取り出し、私にそう言った。


「はい」


 私は次元収納魔法から財布を取り出し、そこからさらに値段分を取り出す。

 それに彼……いやまあ、彼女の可能性もあるけど。ともかく店主さんは少し驚いている様子だ。


「ありがとうございます。それではどうぞ……えと、一つほどお聞きしてもいいですか?」

「うん? なんでしょう?」


 私が買った品を受け取ると、そんなことを聞かれた。


「魔法使いの方ですか?」

「そうですねー。魔法使いです、見ての通り!」


 私は冗談っぽく笑った。


「やっぱりそうだったんですね」

「何か気になることでもありましたか?」

「いえ……なんというか、その私の顔を見て驚かない人は珍しくてですね。そういえばここによく来る魔法使いさんも似たような感じだったので、思い出したんです。すいません」


 確かに、目の前の店主さんの顔は、特に獣人の血が強い。獣の耳や尻尾が生えていたりするだけの人間なら、どんな国でも少しくらいは見るが、ここまで獣人の血が強いのは少し珍しくなってきてしまうだろう。


「いえいえ! 別に大丈夫ですよ」


 私はそう言って小さく微笑んだ。


 それにしても、ここには魔法使いがよく来るんだ。

 私も魔法使いだし、運命的なアレを感じる……ような気がする。


「そう言ってくださるとありがたいです。その魔法使いの方はこの辺りに住んでいるらしいのですが、この店を気に入ってくださっている様子で、よく来てくれるんです」


 確かに、この辺りは住むには悪くないかもねぇ。

 穏やかだし、だけどそこまで田舎……といったら失礼だけど、そこまで発展していないわけでもない。


 魔法使いには大体分けると三種類くらいの人がいる。

 まず魔物退治で稼ぐ人。色んな人が持ちやすい魔法使いのイメージがこれだ。実際数も多い。次に魔道具系で稼ぐ人と、研究で稼ぐ人。


 その中の、魔物退治、つまり冒険者で考えると、この辺りは依頼数もそこそこ多くてちょうど良い。

 あんまり都市すぎると少なくなるし、田舎すぎてもそもそも協会自体がない場合もあるからね。


「へぇ、そうなんですね」


 私は頷いた。


「あ、すいません。引き止めてしまったみたいで……」


 すると、店主さんは小さくお辞儀をしてそう言った。


「いえいえ、面白い話でしたから。それでは失礼しますね。ありがとうございましたー」


 私は小さく微笑んだ。


「ありがとうございましたー」


 〜後書き〜

 些細なことではありますが、タイトル表記が今回から少し変わります。こちらの方が分かりやすいかなーと思い、変更いたします。


 あ、ついでに、本文も少し修正が入っております。会話文同士の空白行がなくなりました。

 ……えっと、これはどうでもいい変更ですね。

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