七話:魔法使いの街と賢者志望の女の子/第五幕:終
結局、あの話の通りに教師はやめることになった。
たった二週間ではあったが、まあ久しぶりに誰かにものを教えるのは悪い体験ではなかった。
さて、それで、一応私は短い間と言えど師匠をやったわけだ。
そこで、少しやりたいことがある、よくあるアレだ。
「杖を渡す、か」
「そう! それも黙って家の玄関に置くサプライズチック!」
それに、会って渡そうとしたら断られるかもしれないし。
使われなくても構わないけど、とりあえず貰って欲しいのだ。
「んで、どれにしようかな……」
目の前にあるのは、魔法使いの装備ショップ。
お高めのもあるけど……うーん、あんまり高いの買うと今度は私の財布がさみしくなってしまうので、学生じゃ少し買えないな、くらいの値段のものにしよう。
「よし、これでいいかな……おじさん! これお願いします!」
「あいよ、千四百
「あ、プレゼント用なんですが、そういうのってありますか?」
私は、思いついてそう聞いてみた。
「……あー、別にそういうサービスはねぇな。でも、やってほしいってんならうちにはあるぜ! 割増だけどな!」
すると、返ってきたのはそんな返答。
……商売人だなぁ。
「う、うーん、じゃあお願いします!」
◇
旅人、という行き方は、ずっとこの街で生きてきて、これからもそうするのだと考えていた私にとっては予想もできない生き方だった。
親も基本定住だし、周りの人間、というか世の中の大半の人間はそうだろう。
しかし、賢者になる、という目標が潰えた今、魔法学校を卒業したりしたときには、旅人になってみるのも悪くないかもしれない。
「……でも、今はとりあえず学校頑張ろ」
赤点気味なわけではないが、やはり魔法は好きだし、好成績も取りたい。
自分の頬を両手でパチン自分にそう発破をかける。
あのイリアさんに教師をやめてもらった理由は、自分で頑張れなくなるからでもある。自分から聞かなくても、あの人は教えてくれるけど、自分からやろうという意欲がないと、成長はできない。
――コンコン。
と、急にノックの音がした。
今は少し日も暮れ始めているが、誰だろう?
玄関に向かって扉を開けるが、誰もいない。
「……いたずらぁ?」
私が疑問の声を上げ、扉を閉じようとした時、足元に何かあるのが見えた。
それは、赤と白で装飾された箱。
「うん? なにこれ?」
私は疑問に思って、周りを見渡すが、明らかにここに置かれているものだ。
「……とりあえず開けよ」
私はそれを中に持って帰り、開けてみることにした。
特にこれといった封はされていないその箱をパカリと開けると、中に入っていたものは二つ。
まず杖が入っていた。
オレンジ色の魔石が嵌め込まれた、少し高そうな杖。
「え?」
と、手紙だ。
中を見てみると、差出人はイリアと書いてある。
――短い間だったけど、先生するのは案外楽しかったよ! この杖はプレゼント、別に使っても使わなくてもいいけど、受け取って……ほら、なんかこういうの師匠っぽくていいじゃん? じゃあね!
「……ふふっ、確かにあの人らしいのかなぁ」
ここにも書いてある通り、そんな長い間一緒にいたわけじゃない。
けど、あの人にはその短期間でさえ人を変えれてしまうような、何かがあるのかもしれない――
◇
「ただいまー」
「……ふわぁーあ。おかえり、イリア。どうだった?」
「いや、ただ置いてきただけだしね……反応見たいなとも思うけど、バレたら元も子もないし」
「ふっ、それもそうか」
「で、じゃあ明日にはここを出発しようかな。フィルもそろそろ飽きてきたでしょ? ここ」
「まあそんなところだ。ちょうどいい時間ではあるな」
◇
『イリアの日記帳』
今日は、教師をやめることになった。結局そこまで長くはなかったけど、冒険者として色んな人の教師をやっていた時のことを思い出して、少し懐かしくなった。あの時は、舐められることも多かったなぁとか。やめることにはなったけど、彼女にとってもいい経験だったのかも――
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