七話:魔法使いの街と賢者志望の女の子/第三幕
「はぁ、白金級であることにこれほど感謝したことはないね」
留置所から出た私は、疲れたままそう呟いた。
少し話して、事情は分かってもらえたのだが、彼女の過失のせいで火事が起きかけたのは事実だ。そんな大事だったから、白金級だったら信じてもらえなさそうなレベルで、私も少女も疑われていた。
あ、あとこっそりついてきたフィルも、私に随伴してるよ。
バレないように隠れてたらしい。
「冒険者って案外信頼されてるんですね……」
「そりゃあ、ほぼどんな場所にもあるくらい普及してて、さらに国が支援してるくらいの場所もあるし、そもそもランクを上げるには信頼も必要だからねぇ」
「なんだか意外です……あそうだ、師事についてですけど――」
◇
と、言うことで、教師をやることになった。
……というのも報酬はちゃんとあったし、そもそも、また事件起こされるのが怖いからら、協力しようと思ったのだ。報酬は多い方ではなかったけれど、まあただの臨時収入だし問題はない。
あの後メルの家に招待され、詳細を話された。
何やら魔法学校生な上に、親が賢者の称号持ちらしい。だから、学校で賢者になれるほどの実績を出せば好成績になれるし、さらに親という目標にもたどり着ける、ということであんな無理をしたらしい。
そして親は裕福な方だが、仕事が忙しいために魔法について教えてもらうことはできない。そこで一見凄そうな私に白羽の矢が立ったわけだ……いや、一見、と言ってもそこそこの実力ではあるけれど、いきなり信頼するのはどうかと思う。
今は彼女の家の庭で、この前の魔法陣の解説中だ。
「で、前失敗した魔法陣の話だけど、どこが悪いと思う?」
前の魔法陣は、何がやりたかったのかと、失敗した理由くらいなら少し覚えている。
記憶をもとに書き上げて、威力は最小限に抑える。
ちなみに、これは火の魔法を魔法障壁を使わずに小空間に閉じ込めようとしていたらしい、既に本人にも確認済みだ。確かにできれば応用は効くだろうけど――既に先人が通った道でもある。
「えーっと……魔法放出の方向間違えたとかですかね?」
「ちょっと違うね」
私は言って、術式の端を弄った。
そこは、火魔法の制御部分、その端も端だ。一見関係なさそうに見えるそれだが、その内容が少し間違っていて、魔法の威力に干渉してしまっている。
だから、風魔法や火魔法の形によって閉じ込める部分が、耐えきれずに崩壊。上方向に噴出したということだ。
「ここが、威力に干渉してる」
「え? ……あっ、本当ですね。か、確認したはずなのに……」
「まあこういうミスはどれだけ上手くてもついてくるものだからね。詠唱とかイメージをもとに頭の中で術式が構築される手元からの発動だと多少なんとかなるけど、魔法陣だと正確にやらないと駄目だからね」
人間だから、ミスを完全になくせるわけじゃないからね。
「そうなんですね……勉強になります」
「実験なんて失敗前提のものがほとんどだから、ああやって危険が残る状態でやるのは危ないからねー。もちろん、規模が大きければ大きいほど事前確認も大事だけどね」
「分かりました!」
「……というか、これくらいは調べてやらないと本当に危険だよ? 大丈夫?」
「うっ、そ、それは学校のこととかありましたし……ちょっと焦ってたんです」
そう言ってメルはうつむいた。
「じゃ、これからは事前準備はしっかり気をつけてね!」
私は、その緊張をほぐすために、軽く笑って言った。
「分かりました」
ちゃんと響いたみたいで、安心だ。
◇
そこからは、しばらく家に通って、色んな魔法に関する話をした。
『あ、そこ間違ってるよ』
『え? そうですか?』
『ここが他のところと干渉してるから、魔法陣として使う以上は改変しないと駄目だね』
『……確かに、そうですね。ありがとうございます!』
色んなことの解説もそうだし、メルが実践したことへのアドバイスもあった。
『遅延発動系の魔法陣での実験?』
『はい、これなら安全かなと』
『うーん、悪くはないけど、もしそこが間違ってたら大変なことになるから、確実な手法のほうがいいかな? もちろん、小規模ならそれの方が早くて良いと思うけどね』
『そうなんですね、分かりました』
教師を始めてからは、宿屋でぐっすりなことが多くなったフィルも、たまに顔を出すことがあった。
『魔法の歴史か。先人のことを学ぶのは重要だな』
『あっ、フィル……さん。そうだ、このネイルスさんがやっていることがいまいち分からないんですが……』
『ああ、確かに少し分かりにくいな。彼女が得意なのは『科学と魔法の融合』だ。その融合で代表的なのは『魔力駆動形コア』だな。あれは単純作業を行うエネルギーを生成するものだが、魔力を使っていて――』
それから、大体二週間ほどが経過した――
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