七話:魔法使いの街と賢者志望の女の子/第一幕

 はー、と吐いた息が白く凍る。

 ここは寒冷地だ。今は雪も少し降っている。


 そして、ここは魔法国家、と呼ばれるほど魔法の発達した国だ。そうでなければこの場所に国を建てられない、という話もあるだろう。

 世界一と呼ばれる魔法学校が存在しているし、道行く人が魔法を使っていることもある。それに、色んな家庭では魔道具が当然のように使われている。

 普通の街よりも人口は多い――はずだが、ここが少し中心から外れているせいか、それとも雪のせいか、静かな街のように感じる。


 すぐそばには小さめの公園があり、道に並ぶのは他の国よりも少しばかり上に積まれた建造物群。


 その建物から、この国の技術力の高さが垣間見えていた。


「雪か。見るのも久々だな」


「だね」


 私の首にはマフラーが巻かれており、上着には厚めのコートも着ていた。帽子はいつも通りだが、色合いはしっかり上着とマッチしている。私は抜かり無いのだ。


 と言っても、魔法使いの服は着ていない。別にあの魔法使い装備は優秀ではあるけど、万能なわけじゃないからね。


 同時に、手に持っているのは観光雑誌だ。書いてあるのは『大賢者レインの偶像! 魔法革命の立役者!』という大きな文字。

 今回は別に、魔法のためにここに来たわけではない――まあ、魔法が発達した国はどんなものだろう、と気になって来た部分は存在するんだけど。

 ともかく、観光しに来たのだ。だから、今の私は魔法使いのイリアではなく、旅人のイリアってこと。


「――で、これが大賢者レインの像、とね」


 目の前にそびえ立つのは、足元に『大賢者レイン』と書かれた大きな像。

 魔法の街、と呼ばれるくらいなのだから、魔法革命の恩恵は享受しているのだろう。

 そして、それを起こした彼の実績を称えてあの像を建てた、といったところだろうか。


「そうだな――しかし、皆他の大賢者は称えないのか? 表に出ていたのはマスターがほとんどであったが、それには他の大賢者が多く関わっていたというのに……」


 なんだか悲しそうにフィルがそう言う。


 そう、実は大賢者は一人ではない。

 あの演出が派手な海空の遺跡だって、レインが一人で作ったわけではない。他の大賢者と、加えてさらにその下にも部下がいたらしい。


 大賢者は他にも数人いたが――スールと、フェイルと……あと二人いたっけ?

 あまりよくは覚えていないが、それぞれが口頭詠唱や魔道具など、一芸に秀でていたらしい。

 他の大賢者の存在自体はみんな知っていることだが、称えられているのは一部以外ではあまり見たことがない。


「彼らはまとまりはなかったが故に、マスターがそれをまとめ、先導していたのは事実だが、それだって彼らがいなければ成し遂げられなかったことだ」


 だからレインは表舞台に立つことが多く、様々なところで有名なのだろう。


「……まあ、目立ちたがりとも言える行動を取っていたマスターにも問題はあったかもしれないが」


 フィルは、素に戻ってそう呟いた。


 ……どうやら、そういう意味でもなさそうだった。そういえば、遺跡の数々で見られる派手な演出もレイン発案、ということだろうか。となると――


「確かに。あの演出は目立ちたがりって言われても納得できる」


 私は、海空の遺跡や、今まで行ったことのある遺跡を思い出しながらそう言った。

 そして、私は、ずっと隣の公園が気になっていた。というのも――


「……あのさ、あれ何してるんだと思う?」


 一人、その真ん中で屈み込んで、何かを弄っている少女がいたのだ。

 下には淡く光る文字のようなものが記されていた。あれは小さめの魔法陣だろうか?


「なんだろうな。魔法陣を弄っているようにも見えるが、何かの実験か?」


 どうやらフィルも同じことを思っていたようだ。


「あー、そういえばここは魔法の研究も盛んだもんね。そういう研究者の人もいるのかな? ……うーん、でもちょっと若くない?」


「親が研究職であれば珍しいことではないのではないか? そうであれば教育も高等なものを受けるだろうし、親の職である研究者を目指してもおかしくはないだろう」


「確かに、そういうものか」


 私は少し納得した。

 が、彼女は未だに色々と弄っており、何が起きるかは分からなかった。


 ――私が言えたことじゃないけど、なんか不安だなぁ。

 そもそも、魔法陣に近すぎる気がする。そういう研究者の中には、魔法陣を書ける触媒のチョークを魔法で動かして、遠隔で実験をする研究者もいるくらい安全は配慮するのだが、彼女は随分近くで書いているように見える。


 危険だし、そこの配慮が足らないということは、実験をするには少しばかり未熟なんじゃないか、という心配だ。


「うーん、でも危なくな――」


 ボッ、と火の手が上がった。

 その柱は公園にあった手入れされていない雑草を燃やし、周囲の空気を揺らめかせた。


 その火の手は、放置していれば周囲の建物にも引火してしまいそうだ。


「ほら! やっぱり!」


「だな、私も手伝おう」


〜あとがき〜

 カクヨムでは日を分けて投稿するのが良い、と聞きまして、本作でもその手法を取ろうかなーと思いまして、投稿方式を変えることにしました。

 ですので、本日の投稿に加えて、ここから一日に一幕ずつ投稿していく形になります。


 困惑される方もいらっしゃるかもしれませんが、ご理解いただけると幸いです。

 ブックマークをしていただければ追うことができますので、そちらの方もよければよろしくお願いします!

 また、小説家になろうの方では一足先に全幕公開していますので、もし先に見たいという方がいらっしゃいましたら、お手数ですがそちらの方をご覧いただければと思います。


 最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!

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