六話:邂逅の遺跡と魔法使いイリア/第五幕:終

「そういえば、今まで聞かなかったけど、レインの遺跡って二人目以降はどうなるの? 一回きりにしか見えない仕掛けが多いけど」


「ああ、それらはほとんど自動でリセットできるようにしてある。この遺跡も例外ではない――と言っても、元の戻らないものもあるがな」


「へぇ、そうなんだ」


 歩いていると、向こうにこれみよがしに台座の上に置いてある、文字が光る石版があった。

 また、その台座の付近には魔法文字もあった。


「……あれも復活するの?」


 もしするとしたら一体どういう仕組みなんだろうか。


「ああ。裏で作れるようになっている――が、素材がなくなれば動かなくなる。無限ではないな」


 すると、フィルはそう説明した。

 なるほど、納得だ。しかし、裏で作っている、というのも相変わらず凄い仕組みだなぁ、と思う。

 ……同時に、技術の無駄遣いでもある。多分今回の遺物もあまり意味のないもののはずだ。つまりただの演出アイテム。

 まあ稀に写真機のように意味のあるものもあるけどね。


「へぇ、まあそりゃそうだよね。無限に動いたら逆に怖いよね」


 私は、タッタッタとその石版に寄って、それを取った。

 今回の遺物収拾、完了!


「今回の遺物、これだよね?」


「少し待て」


 フィルは、次元収納魔法を発動して、一冊のメモを取り出して、それを魔法で浮かせ、パラパラとめくってから続けて言った。風魔法と、無属性魔法『物体干渉』によるものだ。後者はあまり効率が良くないが、その分汎用性は高い。


 ……魔法の無駄使いにも見えるけど、猫の体なのでしょうがない。


「ああ、そうだな」


「おっけー。それで何々、文字の方は――」


 次いで、私は文字を読む。

 書いてあることを要約すると『この遺跡は精神干渉が主な仕掛けで、本人の鏡写しを夢の中に出現させるもの。精神干渉は用法を間違えると危ないから、この遺跡は自分の作ったものの中でも危険な部類に入る。攻略おめでとう。その石版が攻略の証だ。自分自身に打ち勝った君は随分成長しただろう』ということらしい。あとは、仲間への感謝も綴られていた。


「なるほどなるほど……確かに、精神干渉は下手に使うと心が壊れちゃうからね」


 もちろん、発動者の実力が高くなければそれも無理だが。


「ああ。こう見えて、マスターの遺跡の中では随分レベルの高い遺跡だ」


 石版の方は、何らかの粉触媒を用いた魔法によって生成された文字に見えるが、何を書いているかは分からない。


「ねぇフィル、これってなんて書いてあるの?」


「……知らん。マスターが何を考えて、どんな意味の文字を記したのかは私も知らない。もしかすると、ただの汚い字の可能性もある」


 訊くと、フィルはそっぽを向いてそう答えた。


「……えぇ? そんなことある?」


 まじまじと石版を見つめるが、文字が汚いようには――いや、言われてみればその可能性も……


「ま、まあいいや! ともかく、攻略完了ということで!」


 私は次元収納魔法に石版をしまってから、ぱちんと手を合わせ、そう言った。


 ◇


「……眠いな」


「だねぇ……ま、しょうがないか。すぐ別の街に行って寝よう」


 上を見上げると、うるさいくらいに沢山の星が瞬いている。

 街の中にいたら、街灯でその数は減ってしまうだろうが、こうやって旅をしていれば、これくらいの星はよく見れる。


「随分清々しい表情をしているな。夢の中で自分自身に会ったからか?」


 すると、フィルが急にそんなことを言ってきた。

 ……えっと、そうだったのだろうか。


 少し考えてみると、確かに、気分は良いかも知れない。

 ――案外、昔の自分と決別したと言いつつも、完全には出来ていなかったのかも知れない。

 それが、あの遺跡によってその決別を手助けしてくれたのかも知れない。


「あー、そうかも。案外、私も昔に未練があったみたいだねぇ。まあ、今回でスッキリした――感じがあるけど、もしかしたらまだ残ってるかもねー」


 まあでも、もしそうだったとしても、またその時どうにかするだけだ。


「未練と言っても些細なものだったようだな」


「だね」


 私は小さく笑った。

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