五話:おもちゃの国の盗難事件/第五幕:終
「さて、しばらく追ってたんだから、私のことは知ってるよね? ここからは尋問タイム! 依頼者に頼まれたからね。動機と盗まれた物品の回収を」
ライフェルさんは、少年と視線を合わせるように少し屈んだ。
どうやらしばらく追っていたらしい。情報はある程度あったみたいだし、あの身のこなしが原因で捕まえるのに手間取った、というところだろうか。
「……とりあえずこれ溶かせ。冷たくてしょうがない。縄あるんだからもういいだろ」
少年は、先程よりは落ち着いた様子で、吐き捨てるように言った。
「あ、ごめん。じゃあ溶かすねーっと」
私は床に張った白い冷気を発している氷に向かって、魔力を飛ばす。
すると、それは水になるでもなくどこかへと霧散していった。
あの氷も、術式で変換しただけの魔力の塊だ。魔力そのもので少しつついてやれば解除できる。コツはいるけどね。
そして、その足を見ると、特に怪我はないようだった。安心安心。
「おお、ありがとうイリアさん……さて、じゃあ動機を教えてもらえる? お金目的っぽい感じはしてるけど」
ライフェルさんは、再度そう訊いた。
「……じゃあ知ってるだろ。金がなかったから、盗んでそれを売ろうとした。ちょうどいい魔道具を見つけたんだ。持ってても怪しまれないやつ」
少年は言いながら、モゾモゾと手を動かしていた――逃げる気なのだろう。
……うーん、じゃあ少し脅すような真似になっちゃうけど、こうしようか。
私は手元に氷の柱を作り出して、笑顔で少年を見る。すると少年の顔からはサーッと血の気が引いていく。
――いや、別に殺すわけじゃないんだけど。
「うんうん、まあそこまでは予想してたね。それで、大事なのはなんでそれをしたのかだよ」
構わず質問を続けるライフェルさん。
とりあえず、私は氷柱を消す。
「……金がないって言ってるだろ。親もいないし孤児院にも入れなかった」
少年はまだ少し血の気の引いた顔で、目を逸らす。
「……うーん、じゃあとりあえず、盗んだもの返してもらえる? じゃないと困るからさ」
ライフェルさんは困ったような声色で言った。
その表情は横顔しか見えないから詳しくは分からないが、考え込んでいるのは分かる。
「そうしたら俺が生活できなくなる――わざわざ無駄話してないで、とっとと自警団にでも突き出せよ。そしたらお前も金もらえてハッピーだろ」
少年は吐き捨てるように言った。
「いやー……でもねぇ、そうやって見捨てるのは私の性分じゃないからねぇ」
すると、ライフェルさんは少し考え込んでから、懐から一つ麻袋を取り出した。
それは中からジャラリと音が鳴っており、恐らく中に入っているのは貨幣であることが想像できる。
――まさかお金渡すとは、驚いた。案外優しいようだ。
うん? そういえばお金ないって言ってなかったけ?
「……んだよ、同情か?」
少年はライフェルさんを睨む。
私の疑問をよそに、会話は続いた。
「まあそんなところ? ――私、こういうのは経験したことあるから。ほら、孤児院の手続きとかもしとくから、このお金でなんとかしな」
ライフェルさんは優しい声でそう提案する。
「これで俺がまた犯罪やったらどうすんだよ」
睨んだまま、怒気を含んだ声が響く。
「それは、私の管理のせいということで」
腕を組んで自信満々に言うライフェルさん。
「なんだよお前! 何がしたいんだよ!」
少し泣き出しそうな、怒ったような声で少年は叫ぶ。
盗みなんて本当はしたくないし、悪いことだと分かっている。だけど、せざるを得ないからやっている。
まあ、そんなところでいきなり優しくされたら困惑するよね。
「だからぁ、私が助けたいの。突き出すのは嫌だから。こんな子供も助けられない社会が嫌いだから、せめて私は目に見える範囲でそうやってる」
ライフェルさんは、至って平静に返す。
さっきのお布施といい、正直変な人、という印象が強かったけど、優しくて芯はある人なんだろう。
「……意味分かんねぇ」
少年は俯いた。
「分かんなくてけっこー。じゃあ孤児院、入ってくれる?」
「……しょうがねぇから入ってやるよ」
俯いたまま、小さく少年は返す。
「犯罪もなしね?」
ライフェルさんはそう訊く。
「……」
が、少年は顔を上げ、ライフェルさんを見たまま何も言わない。
「ね?」
返答がない少年に対し、ライフェルさんは更に圧をかけて迫る。
……というかああいうこともできるんだ。なんだか意外だ。
「分かったよ! やらなきゃいいんだろ! ……俺だって金がありゃやってねぇよ」
少年は観念したようにそう言った。
「よし! 後はもの返して! これはあげるから」
そう言ってライフェルさんは、少年のポケットに半ば無理やり麻袋を突っ込んだ。
「……分かったよ」
少年は渋々といった様子で了承した。
「なんだか面白そうなことになっているな」
すると、横からフィルの声がした。
「うわっ! フィルいたんだ」
「まあな。気になったから追ってきた。鍵は閉めておいたぞ」
鍵を閉めた、というのも、フィルは猫の体だけど案外器用なのだ。
「あ、ありがと」
「イリアさん、多分これから盗難品の回収……もとい押収をすると思うので、少し手伝って欲しいんですがいいですか?」
ライフェルさんは、少年を背に私に訊いた。
「……そうなんですか? じゃあ巻き込まれちゃったし、やりますよ」
私は少し考えて、それを了承した。
ここで引いたら結末が気になってきちゃうだろうし、ついていこう。
◇
――それから盗難事件は解決し、通行人の一人はライフェルの噂――と白髪緑メッシュの魔法使いの噂をしていたりした。
……あれは誰かに見られていたらしい。
あの後、少年の隠れ家に行くと、まだ売っていない盗難品があり、それらはライフェルと私が回収することになった。まあ押収、とも言っていたけど。
ともかく、それらは手分けして持っていって、この街の人に戻すことに。
あの少年も、ライフェルが孤児院に入れたそうだ。でも、この街に滞在するわけだから彼の面倒を少し見るかも、なんて言っていた。
あんなアッパラ――少し楽観的な性格をしているけど、案外面倒見が良いみたい。
まあ事実、見ず知らずの他人のためになけなしのお金を渡すのは相当なものだ。
どうやら、ライフェルの親は孤児院によく通っていたらしく、それでああいったことはよく見てきていて、ずっとなくしたいと思っていたらしい。
それとライフェル、と呼び捨てになっている理由は――まあ、結局無償で協力させられてしまったからだ。
あの少年に渡したお金で本当にお金が尽きたらしく、冗談抜きで何も渡せないらしい。
つまり報酬は一切なかった……まあ別にそんなお金に困ってるわけではないからいいんだけど、呼び捨てにするくらいは許してほしいものだ。
もちろん感謝はされたけどね。
「――大体こんなもんかな」
私は書き終えた日記をパタンと閉じた。その手元は、頭上にある私が発動した光の魔法が照らしてくれる。
結局、回収した品を戻す作業やらで、一日が潰れてしまった。といってもそこまで気にしているわけじゃないが。
昨日もいた宿屋の机の上で、頬杖をついて外を見る。窓には外から淡い月光が差し込んでいる。
「そういえば、あの貰った魔道具はどうするんだ?」
フィルは訊いた。
そう、少年が使っていた魔道具は、私が回収することになった。ライフェル曰く、そもそもどこから出たものなのか分からないし、魔法使いの私に任せたほうがいいと思った、ということらしい。
その魔道具は今机の端にポンと置かれている。
「んー、別にどうすることもな――」
私がその魔道具を取って、底面やらを見ていると、ある刻印があった。
そこには『魔導士ミヘイラお手製おもちゃ』と書かれてあった。
「どうした?」
「……魔導士ミヘイラのお手製おもちゃだって」
「本当か? 意外なところで繋がりがあるものだな」
フィルはどこか面白そうに言う。
短い付き合いだったが、キャラは濃かったからなぜこれを作ったのかは大体予想できる。
『なんか面白そうなおもちゃ思いついたから作ろう!』なんてところだろう。あんな危険な魔道具を乗り回す人だし。
「あの人何やってんの……」
私は、何もない天井を仰いで呟いた。
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