五話:おもちゃの国の盗難事件/第一幕
「おー、ここがかのおもちゃの国?」
箒に跨った私の眼前に広がるのは、壁に囲まれた、よく見る赤茶色の瓦屋根が並ぶ街。
がしかし、その中は少し違っている。
よく見ると、向こうの広場から火花のような魔法が上がっていた。
また、門のそばには兵隊のおもちゃが置いてあった。
「らしいな。といっても正式名称は『ヘンレス王国』だが」
いつも通り肩に乗ったフィルが言う。
おもちゃはこの国の特産、らしい。それを全面に押し出して国を経営している、といったところだろうか?
ともかく、私は箒を下ろして門のそばへと寄る。
そこには一人の門番がおり、検閲をしているようだった。
「あっ、こんにちは。入国ですか?」
「そうです――っと、これ、身分証明証ですが、これで大丈夫ですか?」
私はそう言うと、門番さんの返事を待つ前に手早く白金級冒険者のランクプレートを取り出した。
「白金級冒険者……はい。大丈夫です、お入りください」
門番さんはそれを見ると、そう言って私を通した。
「ありがとうございまーす」
私は感謝を述べ、門を通るが、そこは街の中ではなかった。壁は分厚く、短いトンネルのようになっていた。中は少し薄暗い。
「発展はしているようだが案外検閲は簡単なんだな」
フィルが少しだけ声量を抑えて言った。
「だね。まあこの国も一応この街だけで完結してるみたいだし」
おもちゃやら魔法やらが発展しているみたいだけど、小国には分類される国家だ。
そして、少し歩くと、私の目に光が飛び込んでくる。
前を見ると、もう街の中だ。そこを見ると、石造りの建築群に、ところどころ屋台がある、いつもどおりの街並み。しかし近くの広場では何やらフェイスペイントをした人間が小さなショーのようなことをやっていたり、奥の店の方には動くおもちゃが表においてあったりした。
それはおもちゃの国の何は恥じない様相だった。
「凄いね! 流石おもちゃの国」
「小国なのに畑があまりないのは、これで経済を回しているということだろうか」
フィルが言った。どうやら門のすぐ近くには、お土産用と思われるおもちゃが並んだ大きめの屋台があった。
そして待ちゆく人を見ると、頭に獣の耳が生えた人がちらほらと見られた。彼らは獣人、というやつだ。人間と比べて全体の母数が少ないから、獣人王国といった彼らがメインの国以外でここまで多いのは少しばかり珍しい。
観光者として沢山来ているのだろうか。
「そうかも。面白い国だねー」
目の前の屋台には人がおり、そこのおもちゃを手にとって弄っているようだった。
すると、おもちゃが光ったり、空中に文字を映し出したりした。
「あ、あれどこかで見たことある……」
他の国でも見られる、ということは売れているということだろうか。
と、横からパン、という音が鳴った。
フィルも私も、それに反応してそちらの方を向く。そこでは花びらがどこからともなく花びらが現れ、ひらひらと舞っていた。
どうやら、そっちでは魔法のショーをやっているようだった。
私はそれが気になって、見てみることにした。
近づくと、何をやっているのかが見えてくる。
ショーをしている人物は、他の人間のようにフェイスペイントはしていないが、革製の大きなマスクで口を覆っていた。
「……もしかしてあのマスクで詠唱誤魔化してる?」
思わず零れた。
「……言ってやるな。詠唱が分かれば魔法がある程度分かる。ショーとして成り立たないのだろう」
そのつぶやきに、フィルがそう小声で言った。
「――さぁ、次は偉大な魔法使いを兵隊のおもちゃが盛大に送るショーだよ!」
低めの男性の声が響く。
ショーを見てみるが、原理自体はその詠唱隠しもあってか私でも分からない。
ラッパを持ったいくつかの兵隊のおもちゃが音を鳴らして、杖を持った魔法使いのおもちゃが箒に跨って空を飛んでいた。
周りには近くに寄っている子供が何人かおり、さらにそこから少し後ろから大人も何人か見ていた。単純に親子というわけではなく、面白いもの見たさで来ている私のような人間もいるようだ。
「うーん、あれ風魔法で飛んでるのかな……」
私は、それを見ながら原理がどうなっているのか考えていた。
風魔法にしては動きが滑らかすぎる気がするんだよね……
と、声量は抑えているから周りには聞こえていないだろう。
「それを推測するのは野暮というものじゃないか?」
フィルが同じく小声で言った。
「まあそうなんだけど……気になるじゃん?」
「ふっ、そうか。まあ、考えるのも面白さの一つと言ってもいいかもしれないな」
フィルは納得したようにそう返す。
私がそれを見てうんうん唸っていると、動いていたそれらは静止して、魔法使いのおもちゃも地面へとゆっくり着地した。
「さて、今日はちょっと道具が盗まれちゃってね……今回はここでおしまいだ!」
盗まれた、とは少し不穏だが、ともかくショーは終わるようだった。
「面白かったらここに投げ銭くれてもいいんだよ?」
その芸人は、彼の近くに置いてある帽子を指さして、最後に少しだけおどけた様子でそう言った。
抜かりないなぁ、まあ商売だから当然かな?
「……うーん、じゃあ二十ゴールドだけ!」
私は少し悩んで、次元収納魔法から財布を取り出して、そこから銀貨二枚を帽子へポイと投げ入れた。
「おっ、ありがとうございます!」
芸人はそれを見ると笑顔でこちらに手を振った。
私も少し手を振り返して、別の場所へと向かうことにした。
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