四話:魔法使いの喧嘩/第三幕
私は、その後も六日の間稽古をして、迎えた決闘当日。
いやぁ、互いの実力調整は結構苦労したなぁ。たまに一緒に戦ってみたりもしたけど、調整、となるとかなり厳しかった。
私も少しドキドキしながら、会場へと向かった。
「調整の成果が出ると良いな」
「ふふっ、そうだね」
面白そうなフィルに対し、私は笑って答える。
私達がいるのは、森の中。少しだけ木々が少なくなっている広場のような場所だった。
ここなら地形条件も交えて戦えるし、ちょうどいい、とミレイの提案だ。
どうやら私の教えた機動魔法を上手く扱いたいようだ。
「さて! じゃあ二人共、準備は良いよね?」
私は杖を持って向かい合った二人を見て、そう聞いた。
二人からは自信に溢れたような声ではい、と返事が返ってきた。
「じゃあ『さんにーいち始め』で始めるからよろしく!」
私は一呼吸置いて、合図をする。
「さん、にー、いち。始め!」
すると、両者は動き出す。
どうやらミレイは初手からライトアローによる攻撃を行っていた。
「ライトアロー!」
がしかし、レンカはそれを水の球体を使って屈折させて避けた。
「ウォーター」
ステップや走行等で避けれないことはないくらいの速度だが、彼はどうやら体の動きが早い方ではなく、あっちの方が適切のようだ。
あれは屈折云々の話は言ったような気がするが、利用法までは教えていなかったような気がする。
レンカもその水を落として、前を向くが、そこにミレイはいない。
ミレイは、横へと回り込んでいたのだ。ライトアローが発射され、それはレンカの体へと当たる。
「くっ……! ダートウォールっ!」
痛みはないが、先行されたことに違いはない。小さく声を上げながら、レンカは、横から走りながら魔法を撃っているしているミレイの魔法を土の壁で遮る――そしてそれは、砕ける。
「ライトアロー!」
驚くミレイだが、そこから放たれるのはライトアロー。
そしてミレイは初手で風での加速魔法を使っていたらしいが、それが今しがた切れたようで、身体にライトアローが当たる。
「あっ!」
よし! 今の所拮抗している!
――そんな邪(?)な感情が私の頭の中に思い浮かぶ。
驚くミレイだが、その間もな短い詠唱とともに、レンカより発射されるライトアロー。
ミレイはそれを加速しつつ避け、魔法障壁を発動して一時的に防御態勢を取った。
「魔法障壁!」
そういえば魔法障壁の詠唱はマジックウォールだったり魔法障壁だったりするな、なんてどうでもいいことを考えながら、試合を見届ける。
「あっそれずるいぞ! 俺使えないのに!」
「悔しかったら使ってみなさい!」
言葉で小競り合う二人。
決着まではもう少しかかりそうだ。
◇
「なんだってお前はそんな速いんだよっ!」
「あんたこそ随分小賢しい戦法使うじゃない!」
彼らはそう言い合いながらなおも戦っていた。
二人は、それぞれにもう四発ずつ当てていた。ライトアローは服を貫通して肌に少し擦り傷を与えるくらいのダメージで、彼らはその体のところどころに生傷を負っていた。
そしてつまり、互いに残り一発だ。
残り一発の緊張感故か、一発になってからは二人共だいぶ慎重になり、少し長引いている。
ミレイが走りながら発射した数発のライトアローを、レンカは土の壁で防御する。あれはすぐには壊れない方らしく、すべてを受けきった後にすぐ破壊して、その後レンカは一直線上に数十発のライトアローを打ち込む。それをミレイは魔法によって跳躍し、避けた。着地時にはしっかり衝撃を吸収して、着地する。
同時にライトアローを打ち込むミレイ。
レンカはそれを見たのか見ていないのか、素早く前方に、大きめのダートウォールを設置した。
「……ダートウォール!」
今度は壊れるもののようだ。そしてその位置はレンカよりも随分前方で――そして、レンカはそれを盾に走り出した。
――どうやらレンカは今まで避ける以外ではずっと大きく走ったり、動いたりしなかったけど、ここで攻勢に出たようだ。
そろそろ、終わるかな?
「ライトアロー!」
ミレイのライトアローを受け崩れる壁。そしてライトアローを飛んでくると予測し、横に避けていたミレイ――だが、そこにいるのはレンカ本人。
それにミレイは驚きを隠せない様子だが、同時に至近距離で飛んできたライトアローをすんでのところで体を捻って避ける。しかし、体勢を崩してしまった。
「らっ、ライトアロー!」
苦し紛れに打ったライトアローは、レンカの体を掠めるが、当たらない。
そして、レンカはライトアローを射出――そして、それが当たる直前、ミレイは倒れたまま、両手で杖を持ってライトアローを発射した、それはレンカの体の芯を捉えており――
「「ライトアロー!」」
両者、ほぼ同時にライトアローが当たる。
……恐らく、ミレイが最後に打ったライトアローが片手、つまり低い制御と魔力で打ったものであれば、速度不足でレンカの勝ちだっただろう。
両者、息も絶え絶えで、杖を構えたまま見合う。
「はーいそこまで! えーっと、これ言って良いのか分からないけど、引き分けだよ!」
私のその合図に、二人はこちらを向いた。
調整した、と言えどまさか本当に引き分けになるとは思わなかった。そもそも、両者同時に最後の一発を受けるなんてのは随分低い確率だろう。
「言って良いのかわからない、という割には随分楽しそうだな」
……少し顔に出てたみたい。
「ひ、引き分け……?」
「ひ、引き分け、ですか……?」
二人の声が重なる。随分意外そうな表情だ。
そして同時に床にへたり込む二人。
「そうそう。あれは流石に審判は無理かなー。めっちゃ同時だったよ――つまり、君たちの実力は大体同じってことになるね」
私は二人の元へ歩み寄りながら、そう言う。
「へ、へぇ、そうなんですね……」
「そうだったんですか……」
残念そうな声ではあるが、その表情はどこか楽しそうだ。
うんうん、楽しんでくれたようで何より。
「いやー、まさか引き分けとはね……ってことで、私の仕事は終わりかな? 危険そうなこともなかったし、まあ運ぶくらいならしてあげないこともないけど」
「……運べるんですか?」
床にへたり込んだまま、訊いてくるレンカ。
「まあ私には手段があるからね」
と言ってもあの箒のことなのだが。
「そうなんですか……っていうかレンカ。あんなのどこで覚えてきたの? 今まではずっと愚直に撃つだけだったのに……」
……うん?
「ミレイこそ、あんな高機動、どうやって教わったんだよ? 俺たちの師匠は教えてくれないだろ?」
……彼らには師匠がいるようだが、その人は決闘に反対だったらしく、協力はしてくれなかったらしい。
だから私に白羽の矢が立ったわけだが――
「「えっと、言ってもいいですか?」」
二人の声が重なる。そして、その視線が向かう先は――私。
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