四話魔法使いの喧嘩/第二幕

「……よし、じゃあ予定は決まったし解散かな!」


「はい。大丈夫です」


「ええ。ありがとうございます」


 さて、じゃあ準備だね。


 ◇


「ねぇミレイさん。レンカくんには秘密で、稽古でもつけてあげよっか?」


 一人歩いているミレイに、肩をトントンと叩いて名前を呼ぶ。


「えっそれは嬉しいですけど……いいんですか?」


 そう、これはミレイが決闘が苦手そうだったからの提案――ではなく、どちらにもこれをやって、引き分けするくらいの実力にしたらどうなるんだろう、という実験のようなものだ。


「うんうん、もちろんいいよ。実戦はちょっと苦手そうだったしね!」


 実験、ということはつまり――


 ◇


「ねぇレンカくん、ミレイさんには秘密で、稽古でもつけてあげよっか?」


 私は先程ほとんど同じ、しかしその人名だけが違う文言をもう一度放った。


「いいんですか? それは嬉しいですけど……」


 ミレイと似たような言葉を並べるレンカ。

 ……やっぱりこの子たち仲いいでしょ。


「もちろんもちろん。でもやっぱり、圧勝の方がよくない?」


 ◇


 ふっ、私の悪戯魂が炸裂してしまった……

 私は稽古の計画を頭の中で立てながら、宿屋への帰路についた。


「随分楽しそうだな。久々の『悪戯』か?」


 そういうフィルだが、なんだかこっちの方が楽しそうにしている。


 可哀想かもしれないが、道端でわっかりやすく喧嘩した上に、私に面倒事をふっかけてきたその結果だと思えば、妥当なところだろう。そう! 私には免罪符があるのだ!


「まあそんなところ。で、そういうフィルも楽しそうだね〜。お主も悪よのう……」


 私はそんなフィルに対し、おどけてそう言ってみせた。


「はっはっは、そうだな」


 稽古は明日から、ということになった。それぞれ場所は違うようにしてあるし、日時も別々だ。

 これならバレることなく、面白いものが見れるぞ――!


 ◇


 今回の決闘の形式では、殺傷能力が高いものは使えないから、基本的には妨害用の魔術を使いつつ、実際に当てるのは速度が早く、かつ威力も弱い『ライトアロー』と呼ばれている魔法を使う、というのがセオリーになるだろう。光属性の魔法で、演劇なんかでもよく使われたりする魔法だ。


「あー違う、そこはしっかり術式全体に魔力を通さないと、形が変になって上手く動いてくれないよ?」


 そして、目の前に浮かぶのは、丸い土の壁。しかしそれは少し震えているようにも見えた。

 これは『ダートウォール』という魔法の、耐久弱体化版だ。


 基本的な魔法の発動は、魔法の計算式である術式を通して行われる。

 で、それらは基本的には事前に用意した術式を覚え、理解し、実践時に思い出して、使う。そう、例えば『ダートウォール』のように。

 今回はその用意した『ダートウォール』をいじって使うことになる。


 ちなみに、これが魔法の分類がただ人間が振り分けただけにすぎない理由だ。

 中級魔法も上級魔法も、ただの術式の集合にすぎない。それらは集合知によって効率化され、同時に広く使われているものではあるが、どちらもその使用難易度によって振り分けられただけだ。


「あの……普通に『ダートウォール』を使ったら駄目なんですか?」


 と、レンカからそんな疑問が飛んでくる。

 そちらのほうが確かに簡単なのだが、今回の用途には供していないのだ。


「んー、まあそれでも使えないことはないけど、ちょっと硬すぎるかな。今回の目的は、これを割らせてその後ろから魔法を撃つことだからね」


 つまり、壊れる壁を利用した不意打ち、ということだ。

 耐久は著しく低いけど、たまに織り込むだけで相手は相当やりにくいはずだ。


「なるほど……確かに、防ぐだけではなく、攻撃にも転用できますね」


「もちろん、連続でやればバレるし、相手が二連続で撃ってこないか、とかの警戒は必要だけどね」


 ◇


「ただ身体に魔力を通すだけでも体は早くなるんだけど、それは魔法使いらしくないし、ちょっと慣れが必要なんだよね――だから、今回は魔法使いらしく、魔法で移動を早めて、立体機動なんかもしちゃおう!」


 魔力による身体強化は、魔力消費が非常に少なく、有用ではあるのだが、いかんせん慣れが必要だ。まあだから剣士とかはみんな勝手に習得してるのかもね。

 ともかく、今回やるのは魔法による機動。飛ぶのはまだ少し難しいだろうから、加速と、跳躍。

 加えて、それの制御だ。


「立体機動! それなら確かに勝てそうですね!」


 ミレイは嬉しそうに言った。


「例えば相手の視界を奪ってから上から攻撃すれば相当バレにくいし、逃げるときも横だけじゃなくて縦にも逃げれる。利点は多いよね」


 まあ私は跳ぶ、のではなく飛ぶんだけど。


「それで、私初級風魔法の応用で上に少し浮いたり、逆に着地を緩やかにするのはできるんですが、跳ぶのはどうやってやるんですか?」


 初級と言えど応用ができる、というのは結構凄いものだな、と私は思う。

 応用はもっと次の段階で行うことが多いからね。


「それはね、魔法障壁を使って空に足場を作ったりするんだよ。それと、風魔法の『ウィンド』ってあるでしょ? あれを足に纏わせればが早くなるんだよ」


 私はミレイが無属性魔法を使える、という話からそんな提案をした。

 『ウィンド』は初級魔法だし、これについては足に纏わせるだけで、至極簡単な応用だからできるだろう。


「空中に足場を……確かに、できそうですね」

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