閑話:手紙配達人イリア/第一幕
花がちらほらと咲いている広大な草原の上。
「……ふぁーあ」
私は、空飛ぶ箒の上で大きなあくびをした。
「そんな制御では落ちてしまうかもしれないぞ?」
「えー、だって暇だしねー。じゃあフィルが制御して?」
フィルのそんな言葉に対し、私はそう返した。
「……いいや、なんでもない」
フィルは、ぷいと向こうを向いてそう言った。
「おい、じゃあ最初から言うんじゃないよ」
私はフィルの頭を手刀で小突いた。
――と、何やら、少し声が聞こえたような気がする。
「――せーん! すいませーん!」
やはり、下から何か声が聞こえる。
少女の声に聞こえるそれの音の元の方を見てみると、そこには少女が居た。
彼女が着ている服は、街の外に出る用の至って普通の軽装備、にローブ、といった感じだが、その手には杖を持っており、魔法使いであろうことが予測できる。
歳は私と同じくらいかな?
「降りるか?」
「うん」
フィルに聞かれ、私はそう答えて下降する。
しばらくすると、地上についた。
すると、少女は小走りでこちら側に寄ってきた。
「すいません! 旅人さんですよね? 少しお願いがあるんです」
すると、少女はそう言って頭を下げた。
「旅人ですよー。で、お願いって何ですか?」
「はい。えっと、私はレネルアって言うんですけど、この手紙をある人に届けて、その人の様子を見に行ってほしいんです。その人は隣のレグルア王国にいて『レイテルア』っていうカフェをやってるんです」
少女――レネルアはそう私にお願いをした。
「レグルア国のカフェ、レイテルアね……」
私は、ポケットからメモ帳とペンを取り出して、メモする。
ちなみに、メモ帳くらいなら軽いし次元収納魔法に入れていない。あと、文字は本当は魔法文字で書きたいんだけど……魔法文字はすぐに消えてしまうのだ。
……私ってば結構忘れっぽいのだ。
「おっけーです。あ、あと様子を見るってのはどうすればいいんですか?」
私はメモ帳をしまって、そう聞いた。
「彼はカイラっていうんですけど、私と彼は一応想い人みたいな感じでして……そ、それで手紙を届けたんですが、何ヶ月も返信が帰ってこなくて少し気になったんです!」
なるほど、つまりカップルか。
というか実際に何ヶ月経っているのかは知らないけど、それくらいなら軽くかかるのでは? という疑問は心の奥にしまっておこう。
そう、私は大人なのだ!
心の中でそう呟きながら、私はそれを引き受けようと考えた。
今は暇だしね。
「……なるほど、まあ全然引き受けますよー。とりあえず、何か問題がないか見てくればいいわけですね?」
「はい! そうです! ありがとうございます!」
「全然いいよー。それじゃあね」
「それじゃあ――あ、一つ聞いてもいいですか? ……どうやって箒で飛んでるんですか?」
レネルアは、そう聞いてきた。確かに、魔法使いなら気になりそうだ。
なぜなら、箒で飛ぶ魔法使いなんて滅多にいないからだ。そう、箒で飛ぶ魔法使いは幻想なのだ!
……まあ現に私は箒で飛んでいるわけだけど。
「んー、これは自作の魔道具で、ここの魔石の術式を通して、私の魔力で制御して飛んでるんですよ。自分を飛ばすよりずっと効率よく飛べるから、箒で飛んでるんです」
そう、ただの魔法でも自分を飛ばすことは可能だが、魔力消費が多すぎるし、スピードも出ない。
戦闘向きではあるけど、移動には使えないのだ。
「へー、自作……すごいですね!」
レネルアはそう言って褒めてくる。
「まあ、もっと安全な形にしたほうが安全性は上がりますけど、こっちの方が魔力消費は少ないし、速いし……あと、何よりロマンに溢れてます!」
そう私は言い放った。
「ふふっ、そうですね。ではお願いします!」
レネルアは小さく笑った。
「はいよー。それじゃあね!」
私は箒で浮き上がり、レグルア王国へと向かうことにした。
「次の目的地はレグルアか?」
「うん。ちょうど暇だったしね!」
◇
私はレグルア王国の門が見えた辺りで、箒から降りて歩いて門へと向かった。
……流石に毎回箒どうのの下りをするわけにはいかないのだ。
フィルも箒から降りて、私の隣を歩く。
目の前には、門と壁。どちらもそこまで高いわけではなく、低級の魔物の侵入を阻害する役割だろう。
左手には、少し小麦畑が見えていた。あそこは壁で囲われてはいないようだ。
門を見ると、門番は一人しかいないようだった。
「こんにちはー」
私は、近づいて門番の人に挨拶をした。
初めてくるところだから、ちゃんと門を通らないとね。
「こんにちは。何か提示できる身分証はありますか?」
門番の人は、フィルをちらりと見た後に、挨拶と共にそう質問を投げかけてきた。
この国は身分証の提示式の門のようだ。
大きい国だと、検閲みたいなのも入って面倒なんだよねー。これだと楽で助かる。
「はい。白金級冒険者のプレートを持っています」
「白金級……なるほど。お通りください」
一瞬驚いたような表情をした後、門番の人は軽く頭を下げ、そう言って私を通した。
この門番の人はさっきフィルのことをちらりと見ていたけど、今は気にしていなさそうだ。
フィルがいるとたまーに面倒事が起きたりするけど、今回は白金級だから大丈夫だったのかな?
「はーい。ありがとうございます」
◇
街の中に入って少し進むと、奥には大きめの王城が見え、その下には城下町として、レンガ造りの民家が立ち並んでいる。
昼間だからか、今私達が歩いている大通りは繁盛し、多くの人が行き交っていた。
馬車も数台見えるし、人も多い。
道には屋台がいくつか並んでおり、その店主と談笑している親子が見えた。
レグルアはこの街一つで構成された国だが、人は多いようだ。
「えーと、カフェレイテルアか……」
私はメモ帳を取り出し、名前を確認すると、レイテルアを探すことにした。
辺りを見渡しながら歩くと、少し奥に、右向きの矢印が書かれた案内の看板が見えた。
――カフェ『レイテルア』はこちら
「おっ、あったね。フィルも気をつけてー」
「分かっている」
……フィルは小さいから、人混みの中だとたまに見失うのだ。
もちろん、一人で戻ってくることも多いけどね。
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