三話:海空の遺跡と銀級冒険者/第四幕

「……ここが最奥なのか? 案外あっさりだな」


 先程の謎解きに加え、簡単な謎解きを何個か解いた後、私達はその最奥へとたどり着いていた。

 謎解き、といっても本当に簡単なもので、ヒントに合わせて足場を踏むものとか、そんな程度だ。


 頭を使うような謎解きは最初のあれ以降なかった。


 そして、目の前にあるのは、幾本もの浮遊するボロボロになった大理石の柱と、その柱を繋ぐアーチ。そのアーチ部分には、青色の石がまるで蔦がまとわりついているような、しかし規則的な様子で模様を作り出していた。

 そして、良く見ると大理石の柱には、その一部に青色の宝石が埋め込まれていた。


 それらが私達を囲むように存在している。同時に、威圧的にも感じるそれらは、ここをまるで神聖な場所かのようにしていた。


 少し先には少し高いところに、同じく大理石の台座らしきものが置かれていた。

 そこにあるのは一冊の本と、青い宝石が埋め込まれたしおり。


「そうだな。この遺跡は、謎解きよりも周囲の観察をして欲しいのかもしれん……私はよく知らないが」


 と、逆に気になってしまうような言葉をフィルは付け足した。


 普段は飄々としてるくせに、こういうときはポンコツになるんだから……


「そうなのか? まあいいだろう。じいさんが言っていたのは、ここにあるんだろうな?」


 レルガは、そう呟いて辺りを見渡す。


「レルガさんが受けた依頼のこと? ……というか、その人はなんで中にあるもの知ってるんですか?」


 私は気になって、聞いてみた。


「さぁな。そこは聞いていない。聞くと面倒事が舞い込んでくるかもしれないし、何事もなく高額な報酬が貰えるんだったら、そっちの方がいい、だろ?」


 レルガは、当然、と言いたげな表情で私に聞いた。

 ……うーん、少し同意しかねる、という部分は伏せておこう。


 当然、お金はあるだけ便利ではあるが、それだけを見ていればいいわけではない、と私は思っている。

 まあ結局は、その好奇心とお金への欲、それを天秤にかけて、どちらを取るか、という問題に過ぎない。


 それに、その人の生き方はその人が決めるから、それでもいいんだけどね。


「……ま、まあそうだね。とりあえず探そっか」


 私も、目的の品がある。

 もっとも、受けた依頼は調査のみだが、それとは別、フィルの目的だ。


「このしおりか……? おい、これ取って良いんだよな?」


 台座の上に移動して、その本の上にあるしおりを見て、そう私に聞いてくるレルガ。


「あ、ちょっと待って。何が起こるか分からないし、先に本の中身を見ておきたくて」


 私は急いで近くに寄ると、その本には触れずに、開いているページを読んだ。

 そこには、こう書いてあった。


 ――この本を読んでいるということは、ここの謎解き、試練を全て終わらせたものだろう。最後の方は簡単だっただろうが、最初の試練は中々難しかっただろう。何、どれも君たちの成長のために用意したものだ。世界の知識を集め、その上で世界を理解する。我々の理解している世界とは、ほんの表面のものでしかない。世界を追求し、理解せよ。そして、その美しさに感嘆せよ。


 ――そしてここにもう一つ、ここを作ったくれた私の仲間への感謝を記しておく。


 ――大賢者レイン


「……へぇ、なんだか噂に違わない変人みたいだな。試練といいつつ、危ないことはなにもないしな」


 顎に手を当て、興味深そうに呟くレルガ。


「確かにそうだね。でも、私はこういうの好きだな……」


 私は、後ろを振り返り、そう呟いた。

 ただ無駄に壮大に見える遺跡だが、ここには彼自身が持っていた多くのメッセージがあるのかもしれない。


 ――美しさに感嘆せよ。

 嫌なことなんて沢山世に溢れているけど、良いことは探さないと見つからない。

 そんな世界でも美しさにフォーカスできるのは、幸せなことだ。私も、運良くそれができている。


 ヒュウ、風が吹いた。

 それに飛ばされそうになる帽子を抑えて、私は小さく笑った。


「――そうか。俺には、分からないことだな」


 レルガは、少し悲しげに、そう呟いた。


「さて、じゃあこのしおり、貰っていいよな?」


 と、切り替えて私にそう質問した。


「うん、もちろん!」


 断る理由もないため、私はそう返す。

 レルガは小さくうなずき、しおりを取った。


 すると、台座はゴゴゴと音を立てながら横にずれ始めた。


「うぉっ! やっぱり仕掛けのキーになってたのか!」


 急に動いた足場に対し、体勢を崩すレルガ。


「おおっと、そうみたいだね」


 私も少しバランスを崩してしまい、転ばないように踏ん張る。


 少し待つと、それは収まり、台座の下には少しの空間があった。

 下にあるのは――魔法陣のように見える。一体なんの魔法陣だろうか?


「ん? あれは魔法陣か?」


「だね、見てみよっか」


 私は台座の下にできた階段を降りる。同時に、フィルとレルガの二人もついてくる。

 そして、下にあったのはやはりそれは魔法陣だった。

 この空間は円形状で、これを置くためだけにできたスペースのようだ。

 人が五人くらい入れそうなサイズの魔法陣がぽつりと真ん中に置かれており、それ以外のものはなにもない。

 魔法陣は、紫色の粉のようなもので描かれていた。


 壁には何やら良く分からない文字の羅列が、ライン状に壁を囲っている。


 と、何やら奥の壁に文字が刻まれているようだ。

 近づいて、読んでみる。


 ――帰還用転移魔法陣。台座が開けられると起動する。しかし、初回は転移の準備に少し時間がかかるため、しばし待て。十分もすれば終わるだろう。


「――なるほどな。帰還用のものまでご丁寧に用意されているのか。本当にレインってやつは何を考えてるんだ?」


 肩をすくめるレルガ。


「……最初の問題といい、文字通り『試練』なんじゃないのかな? これを通して、色んな経験をして、知ってもらう。その途中で死んだら意味ないからいらないよね、みたいな」


「へぇ、なるほどな。確かにそれはありそうだ」


 私が軽く予想を立てると、レルガはそう同意した。


 予想、というのは、私だって別にレインに会ったことがあるわけではないからだ。

 ただ、私と似ている部分はあるんだろう。


「さて、それではしばし休憩だな? 待てば起動するようだし、わざわざ戻ることはないだろう」


 フィルはそう提案した。


「だね。待とうか」


「ああ」

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