三話:海空の遺跡と銀級冒険者/第一幕

 ガタコト揺れる馬車の中。

 俺の座る荷台には布が被せられており、少々薄暗くなっているが、その隙間から漏れる光を見れば今はまだ真っ昼間であることが分かる。


 そして、俺は目の前の光景に思案する。


 いかにも魔法使い、といったローブと帽子を着ている白髪の少女と、その上で丸くなる黒猫。


 これは、恐らくどこかの金持ちのボンボンが、適当な理由で『冒険』にでも来たのだろう。

 外の世界は、そんなに安全ではないんだがな。


 俺は高額、かつ簡単な『ただとある遺跡にあるアイテムを持ってくるだけ』という依頼を、その報酬を理由にある老人から受けただけだったが、面倒そうなものを見つけてしまったな。


 さて、起きたら少し諭して、帰してやろう。


「ん……ふぁーあ」


 と、どうやら起きたようだ、じゃあ――


「えーっと、そこのお兄さん、ずっと見てたけど何かご用ですか?」


 ――まさか、気づいていたのか?

 睡眠中でも周りに気を遣うことができるのは銀級かそれ以上のランクの冒険者くらいだ。

 つまり、目の前の少女は冒険の経験はある程度ある、ということになる。


「あ、ああ。すまない。その……年齢の割に、冒険に出ているようで大丈夫かと心配になってな」


 俺は相手の気分を害さないよう言葉を選びつつも、そう口にした。


「ああ、なるほど。まあ私、まだ十八ですからね」


 ポンと、手を叩いてそう言う少女。どうやら気分を害したことはないようで、安心する。


 そして、十八歳。

 予想通りではあるが、やはり若いな。少し心配が残る。


「でも白金級の冒険者ですから、安心してください!」


 そう言って彼女がポケットから取り出したのは、布の隙間から差し込む太陽の光をキラキラと反射し、美しく輝く純白のプレート。首にかけられるよう紐がついているそれは、銀級のプレートの輝きとは異なるものだった。


「はっき……!? す、すまない。凄い冒険者だったんだな。誤解していた」


 一瞬偽造や窃盗、という言葉が思い浮かぶが、こんなに簡単に見せびらかしては、すぐに冒険者協会にバレて、罰則を受けるだろう。

 もちろんその線がないわけではないが、今は信じるのが妥当だ。


「いえいえ、全然」


「……なんだ? 海空の遺跡の最寄り街にでもついたのか?」


 と、横の黒猫が大きなあくびをした後に、人の言葉でそう発言した。

 ――猫が、人の言葉を? 理解の追いつかない頭をよそに、彼女らは会話をする。


「いや、なんか見られてたから。まだつかないよ」


 あの黒猫は……いや、もう考えないのが良いだろう。

 そう思って俺は一度黒猫のことは頭から外す。


「そ、そうだ、敬語は不要だ。俺は敬語が得意ではないし、白金級の冒険者に敬語を使わせるほど偉くはないからな」


 俺は思って、彼女にそう提案した。


「そうです……そう? 白金級もそんな偉くはないと思うけど、じゃあお言葉に甘えて」


 簡単に受け入れた彼女を尻目に、俺は先程の言葉を思い出す。


「――なぁ、さっき海空の遺跡、って言ってたよな?」


「……? うん、フィルが言ってたね。私達の目的地」


 不思議そうにしつつも、彼女は俺の質問に答えた。


「奇遇だな。俺も実は同じところに行く予定だったんだ」


 俺はペラ、とポケットから冒険者協会で手に入れた依頼書を二人に見せた。

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