二話:天才変人魔法使いと天才変人魔道士/第二幕

 あの後、私も少し見たのだが、初めて見る魔道具を直すのに、そんな短時間では不可能だった。

 あんな道端でずっと作業しているのは、他の人の邪魔になるから、一度持ち帰ってもらうことにした。

 そして何やら私の着眼点は結構良かったらしく、手伝ってくれないか、と頼まれたのだ。

 私は年中暇みたいなものだし、知らない魔道具を触るのは面白そうだったから、私は了承した。


 それと、あの自動車という魔道具は、運ぶ方法を持ってこなかったらしく、私が次元収納魔法で収納した。

 あんまり大きかったり、重い物は魔力消費が多くなるんだけど、まあこれから魔法を使う予定もないし、問題はないだろう。


 しかし――


「それにしても、街中をあんなもので走り回るのは危険じゃないですか?」


「い、いやー、あんな大変なことになったのはあれが初めてでね……そもそも、人が少ない朝方に実験してるし、大丈夫だと思ったんだけど、今日は酷かったね……」


 私が指摘すると、頬をぽりぽりとかきながら、困ったような顔をするミヘイラさん。


「これから、危険なのは外でやろう。うん。あでも外は危ないし……いやでも街のすぐ近くなら大丈夫かな……」


 それと、道中でもうお互いに自己紹介をしていた。

 彼女はミヘイラさんと言うらしく、この辺だと少し有名みたいだ。

 ……変人天才魔導士として。何やら今回のような騒動もあまり珍しいものではないらしい。本人の言う通り、あそこまで危険なのは初めてだそうだが。


 先程から道を歩いているわけだが、たまにミヘイラさんは声をかけられていたりした。

 それらは好意的なものが多く、変人ではあるが愛されているようだった。


「ここが私の家ー」


 と、ミヘイラさんが自分の家らしい扉を開けて、そう言った。

 その家は他の家とは少し違う形をしており、家の一部にはガラスドームのついた部屋があるように見える。


 扉の上には、魔道具をらしきものが彫られた、店によくついている小さな木のプレートがぶら下げられていた。


 商売もしているのだろうか?


「お邪魔しまーす」


 私はそう言ってミヘイラさんの家に入った。

 フィルもトテトテと猫の足でそのまま入っていった。


「こらっ、フィルも挨拶くらいしないと」


「……邪魔する」


 私がそう叱ると、フィルは小さくそう挨拶をした。

 ……んまぁこれで許しといてやろう。


「ご、ごめんねー、ミヘイラさんさん」


 私はそう言ってミヘイラさんに謝罪した。


「いや全然、猫ちゃんかわいいし、大丈夫だよ!」


 ミヘイラさんは全く気にしていない様子で、私は安心した。


「……なんか喋る猫ではあるけど」


 気にしていない……はずだ。


 ミヘイラさんの家は、結構シンプルだった。魔道具らしきものが点在して入るものの、掃除はよくされており、魔道具も丁寧に整頓されていた。

 可愛らしい装飾などは見当たらないが、落ち着いた色合いの家だった。

 ……案外ちゃんと掃除するんだな、という言葉は飲み込んでおこう。


 ちなみに、魔法使いと魔導士はしっかりと違いがある。自分の体で魔法を使うのが魔法使い、魔道具を扱うのが魔導士だ。


「色々置いてあるのに、しっかり整頓してるんですね」


「まあごちゃついてても面倒だからねー。それに、作業場はあっちにあるから」


 ミヘイラさんは、奥にある庭を指差して言った。


「分かりましたー。ってことはあっちで修理ってことになるんですか?」


「そうだね。お願い!」


 私がそう聞くと、ミヘイラさんは元気よく返事をした。


 私達は庭に移動して、魔道具修理の準備をすることに。

 庭は少し走り回れるくらいの広さがあり、魔道具の実験をやるなら困らなさそうだ。

 向こうには小さな小屋があり、色んな道具が詰め込まれているんだろう。


 庭は生け垣で囲まれており、さらにその上には良く分からない植物もいくつか生えており、それらはミヘイラさんが改造したものだろう。

 なんだかミヘイラさんのテリトリーのような雰囲気を感じる。


「さてと、それじゃあ始めようか。問題点は、なぜか魔導エンジンに使ってる術式が上手く動かないこと。そもそも本体が壊れてるって話はあるけど……そこはまあ作り直せばすぐ直る」


 術式、とは魔法を動かす計算式のようなものだ。人間の演算能力ではそのまま魔力を現象に応用することは不可能であるとされているため、術式に一度変換してから使用する。

 私みたいな魔法使いは術式のテンプレートみたいなものをあらかじめ用意しておいて、それを弄りながら遣う感じだね。それで、魔道具の場合は魔石っていう魔力の込められた石に術式を刻み込む。


 さっき軽く覗いたけど、術式自体に悪いところは見当たらなかった。


「ですね。だけどこの術式自体は別に悪くなくて――」


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