一話:世界樹と恋する少年/第四幕:終

「しっかりと、いい話で終わったな」


「まあね〜」


「……準備をしているな? 今度は何をするんだ?」


「いやいや、折角だから覗き見でもしてやろうとね」


「性格が悪いな」


「失敬な〜。そんな変なことはしないよ。ちょっとしたサプライズをね。面白そうだからねっ」


 ◇


 僕は病院の扉を急いで、しかしなるべく音を立てないように丁寧に開けた。

 すると、そこに変わらずに居たのは幼馴染みのレニル。具合は悪そうだが、起きている。


「……ベイル? どうしたの? 急いでるみたいだけど」


 僕はここまで走ってきていた。

 気がつくと、僕は肩で息をしていた。


 呼吸を落ち着けるために一度深呼吸して、話し出す。


「あの……レニル。これ、持ってきたんだ。世界樹の雫」


「せっ!? 世界樹の……!? ごほっ」


 驚いた様子で言って、咳き込んでしまうレニル。


「だ、大丈夫!? 落ち着いて、レニル」


 僕はそれを見て慌てて介抱した。


「ど、どうやって取ってきたの? こんなもの」


 驚愕の抜けない表情で僕に問うレニル。


「その……魔法使いの子が助けてくれたんだよ。凄く強くて……それで、これを譲ってくれた。使っていいよって」


 と、起きたことをそのまま正直に僕は言った。


「そうなんだ……危ないところに行ったのに、生きててよかった。その人には感謝しなきゃね」


 そう言って、レニルは笑った。


「っ……うん。これ、飲んで」


 なんだか少し頬が熱くなるのを感じながら、僕は世界樹の雫を渡した。


「えっと……いいのかな」


 レニルは少し遠慮しているのか、受け取るのをためらった。


「せっかく取ってきたんだし、飲まなきゃ」


「分かった……」


 僕がそう言うと、レニルは世界樹の雫を飲んだ。


 少し待ってみるが、よくなる気配はない。


「ごほっごほっ……」


「……あ、あれ? 治らないの? もしかして何かが間違ってて……」


 僕の頭にそんな考えがよぎった。


「ちゃんと使い方聞いとけばよかった……!」


 と、すぐ近くの窓際から、パシャリと音がした。

 今のは、イリアさんの写真機の音?

 なんで今さら――


「あ、ちょっとまってて……」


 そう思って窓際に言ってみると――

 レニルの笑った表情と、その隣にいる僕が写った写真があった。


「え、い、いつの間に……」


 裏をめくると、紙が貼られていた。

 これは、魔法で描かれた文字?


 ――少年よ、焦るでない。いや、普通薬の効能って時間かかるでしょ? まあでも、明日になったらよくなってるよ! グッバイ!


 薬の効能は……時間がかかる……

 確かに、ごく当たり前だった。


 その事実に気づくと、なんだか顔が熱くなってきた。


「っていうか、本当になんでこんなのが――もしかして、見てたってこと?」


 さらに、恥ずかしさが押し寄せてきた。

 イリアさん! なんでわざわざ見に来たんですか!――


 ◇


 私は、私の作った魔法の箒に跨って、星の瞬く夜空をかけていた。地上はもう随分下にあり、人が米粒に見えるくらいの上空を私は飛んでいる。


 高い標高に加え、吹き抜ける風が私の体に当たり、体が薄ら寒くなる。

 でも、私はこの感覚も、景色も全部が好きだ。


「いやー、面白いもん見れたな〜」


 私は面白く思って、そう言った。


「わざわざ偽のシャッター音まで用意してな。実際に撮ったのはあの瞬間ではないのに」


「いーのいーの。ああいうのは雰囲気だよ!」


 そう、シャッター音と写真がズレていたのは、そういうことだ。やっぱり、雰囲気って大事だよね!


「最初怒っていた割にはもうノリノリではないか」


「まああんまり見せびらかされるとイラつくけど……あれくらい初だと見ていて面白いからねー!」


 他人の恋路ほど見ていてエントゥアーテエィンメントゥになるものはないからね!


「ふむ、それにしても流石にあれは『キモい』のではないか」


 フィルが一拍置いてから、そう言った。


「そんなこと……あるか。ちょっと……キモいかも」


 私は自身の行動を思い返してみて、そう言った。

 一応、二人を覗き見したというわけだから……


「――まあでも、助けてあげたしチャラということに……しといて」


 私は言葉尻が弱くなりながらも、そう言った。


「はいよ」


 フィルは、なんだか面白そうにそう返事をした。


「……ま、実際助けたわけだし!」


 そう言って私は笑った。


「さーて、今日も楽しかった!」


 箒の上で両手を上げ、落っこちそうになりながらも、私はニッと笑った。


「それは重畳(ちょうじょう)だな」


 少しだけ嬉しそうなフィルがそう言った。


 私達は、今日もこの世界を渡り歩く。


 さーて、次の目的地はどこかなー?

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