キラキラの残酷をあげる

マフユフミ

第1話



その美しい顔をぐちゃぐちゃにしてやりたい。

そう思った。


顔だけでなく心も、身体も。

全部ぜんぶ、ぐちゃぐちゃにしてしまいたい。

だって、どれだけ美しくてもそれは自分の手には入らなくて。

こんなにもこんなにも、喉から手が出るほどに求めいているのに決して自分のものにはならなくて。


そんなもの、ぐちゃぐちゃにしてしまえばいい。

誰もが目を背けるくらい。

痛ましい表情をしながら、それでも関わりたくなくてそっと離れていくくらい。




壊してしまえばいい。




苦しみに歪むその顔は、きっと酷く綺麗だろう。

場違いなほど清らかで、気高くて。

その美しさを握りつぶしてしまいたくなる僕は、きっと酷く醜いんだろう。

醜い顔をしながら、ただひとつの欲望のためにギラギラした目でキミを見るんだろう。



想像するだけで笑えてくる。

この手が、この体が、この心が。

美しい破壊を求めている。




純粋なものは、たぶん穢されるためにあるんだと思う。純粋が純粋なままでなんてあり得ない。

そしてこの世界から純粋なんて朽ち果てて、濁って澱んだ何かで埋め尽くされてゆく。




キミは僕に願うだろうか。

やめてほしいと、泣くのだろうか。

その美しさを守るために、真っ白な心を真っ赤に染めて。

壊さないでと、ぐちゃぐちゃにしないでと、僕に跪くのだろうか。



清らかで気高かったキミはもういない。

そこに転がるのは、ただ俗世間にまみれた汚れた人形。

それに気づいた僕は、途端にキミから手を離す。

だって僕にぐちゃぐちゃにされたキミは、あの美しかったキミじゃない。

僕が壊したかったのは、「壊してしまいたいほどに美しいキミ」であり、壊されたキミはキミであってキミでないから。



そこまで考えて、僕はまたキミの美しい顔を見る。

ああ、壊してしまいたい。

この手でぐちゃぐちゃにしてしまいたい。


そんな欲望を抱えた歪んだ僕は、そっとキミに手を伸ばす。

キミという純粋を守るために。

今の美しさを、永遠のものにするために。


キミにこの、キラキラな残酷をあげる。

誰の手も届かない、虚構の中のキミへ。

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