珈琲の香りとチョコのパフェ
零
第1話
「人それぞれ、カラーってあるじゃない?」
それは、唐突に始まった。
いつものことだが、時々ついていけなくなるときもある。
「ああ、うん」
僕は口を付けようとしたコーヒーのカップを寸止めして相槌を打った。
彼女は僕の方をちらりと見て、ため息交じりに自分の食べかけのパフェをかき混ぜ始めた。
この彼女の癖が、僕は嫌いだ。
反面、それは彼女にとっては大好きな食べ方だ。
僕はそれを見ない振りをして、一度止めたカップを口へ運び、ブラックコーヒーを一口飲んだ。
素材の味をそのまま楽しみたい僕と、なんでも混ぜたがる彼女。
今にして思えば、どうして付き合ったのか分からない。
彼女とどこへ何を食べに行っても、不快な想いばかりする。
食べ物の好みが合わないというのは致命的だとは言うが、本当にその通りだと思う。
「合わないって感じている二人の色を混ぜると、汚い色になるのかな」
僕の心を見透かしたような彼女の発言にどきりとした。
別れ話につながるんだろうかと思う。
そうだとして、何か悪いことがあるだろうか。
それこそ好都合ではないのか。
そうも思うのに、なぜか心がざわつく。
自分はどうしたいんだろう。
別れたいのか、それとも違うのか。
「あ、」
考えを巡らせている途中で聞こえた彼女の声につられるように、僕は間抜けにも口を開いてしまった。
「あ?」
そこに彼女がクリームとチョコが混ざったものを突っ込んでくる。
嫌だって、と、思う間もなく
「…おいし、」
口からそんな言葉が出た。
クリームは生クリームではなくて、軽めのミルクアイスクリームだ。
なめらかな舌触りと、仄かなミルクの香り。
それと、ビターなチョコソースがよく合っている。
自分だけなら、絶対に食べないもの。
彼女がいるからこそ。
僕はふっと笑った。
自分と違う。
そのことにこそ、価値があると思った。
見えない世界を、知らない味を、彼女は持ってくる。
そんな彼女は目を閉じて、大きく鼻から息を吸い込んだ。
「私、ブラックコーヒーは飲めないけど、香りは好きだよ」
そう言って彼女はにっこりと笑った。
僕は、そんな彼女がやっぱり好きだと感じた。
珈琲の香りとチョコのパフェ 零 @reimitsuki
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