私の相棒

常盤木雀

ぐちゃぐちゃ

 私にはまだ相棒がいない。これは大きな問題である。


 生まれてから十五年、未だ私の前に相棒は現れない。相棒が見つからなければ、いつまでも成人の儀を受けられない。結婚相手も探せない。三歳で相棒に出会う人もいるのに。


「あなた、まだ相棒を見つけていないの?」


 小馬鹿にしたように笑う同級生。


「私は洗濯中のシーツの中から出てきたよ」

「僕のは書きなぐった落書きの中にいたな」

「私のときは、気付いたら手を振っている相棒が目の前にいたわね」


 助言めかして心配そうに話す幼なじみたち。


 相棒は、ぐちゃぐちゃしたものから出てくることが多いと言われている。小さなヒト型をしたそれは、自分にしか見えず、また自分について回るようになるという。そして様々な加護を与えてくれるのだ。

 相棒の加護がなければ、成人の儀は乗り越えられない。相棒の加護がなければ、婚姻にふさわしい相手か確認できない。他人の相棒は見えないが、相棒からは他人の相棒が見えるようで、相棒がいない人間は、子どもか信用に値しない人物だと見なされてしまう。

 だから、私も必死に探しているのだ。

 ぐちゃぐちゃしたものは何でも試した。雨上がりの畑に突っ込んでみたり、家畜の排泄物置場も覗きに行った。洗濯も目を凝、山の湿った落葉も踏んで歩いた。

 それでも、得られるのは汚れだけ。他の皆は簡単に相棒に出会っているのに、どうして私だけが未だに見つからないのだろう。不適格なのか。



 朝起きる。

 今日も朝食を食べたら日課の相棒探しをして、学校へ行き、仕事をして、また相棒探しをして、落胆する一日になるのだろう。

 それでも、一日を始めないわけにはいかないのだ。


 スクランブルエッグを作る。溶き卵を火の上でかき混ぜて焼く。器に盛る。

 パンとミルクを用意してテーブルに戻る。


「なに、それ」


 卵料理の中に、小さなヒトがいた。


 水浴びするかのように卵に身を沈め、幸せそうに目を細めている。かと思えば、卵を掻き分けて位置を変える。

 そうしてしばらくすると、別の器――家族の料理に移動し、また恍惚としている。


――「俺のは酒を作る樽の、果物をぐちゃぐちゃに潰したところから見つかったんだ」


 近所のお兄さんの言葉が思い出される。


 まさか、私の相棒は、ずっと卵料理にいたのだろうか。そして私に挨拶するよりも卵を堪能することを優先し、家族の食事に紛れていたのだろうか。


 未だ私に気付かない小さなヒトに、指を突きつける。

 それはようやくこちらを見上げると、はっとした顔をして、次になんでもなかったかのようににっこり笑う。立ち上がって、うやうやしくお辞儀をしている。


「やっと会えた。私の相棒さん、よろしくね」


 私も笑顔を作り、明るく話しかけた。

 さっさと相棒契約をしてくれ。卵は後だ。



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