第4話
――それから。
ケンはブッコローに連れられ、懐中電灯の明かりだけを頼りに、深夜の書店を徘徊するツアーに繰り出した。
空調の調子が悪いのか、やや蒸し蒸しするような空間の中で、ゆっくりと、ずんぐりむっくりしたオレンジ色の背中の後をついて行く。
時々、パキッ、パキパキッと破裂音が響いたり、懐中電灯の灯りが急に消えたり、誰もいないはずの非常階段の電気が一瞬だけ怪しい光を放ったりという現象にも見舞われながら、歩みを進めるケンとブッコロー。
「……マ、まあ、古い建物ダカラな!ど、どこかしら故障シテいるところもあるッテ!」
「……ブッコロー、何か声震えてない?」
「なっ!?何イッテンダーヨー。ミミズクの声は、コンナ感じに震えて鳴くのがアタリマエ……」
「あっ!?何、今の!?あそこに白い動くものが……」
「ギャアアー!!!な、何??!?ナニ!!??ナニ!?!?!?」
「あっ、ただの置物だった」
「〜〜〜〜!?このガキンチョ!騙しやガッタなっ!?」
シンと静まり返った深夜の書店とは思えないほど賑やかな二重奏を奏で、さらに歩みを進めていく凸凹バディ。
壁際までぎっしりと積まれた本のフロアがあれば、ケンの経験からは画面上でしか見たことのない、もしくは見たことも聞いたこともない多種多様な文房具や雑貨が置いてあるフロア。何故かカレーや缶詰、ドライフルーツやたくわんといった、さながら食品物産展のようなフロアまで。初めて見るもの、触るもの。ケンの心の中は、どのフロアも異世界に来たような気分になっていた。
「ブッコロー、ここって本屋さんなんだよね?何で、本以外の物も置いてあるの?」
「アー、売上を伸ばすタメの戦略ってやつカナ。本と文房具は関連しやすいし、お客も集まりやすいってコト。店員じゃネーから詳しいことはわからんケド」
「えっ……、でも、食べ物まで置いてあるのは」
「『本以外は、すべて文房具』なんだとヨ」
…………。
何か釈然としない思いだったが、案内人のブッコローが堂々と主張しているのだから、ここではそういうことなんだろう。
概ねすべてのエリアをぐるりと周り終えたケンとブッコローは、文房具が中心に置かれているフロアの床にゆっくりと腰を降ろした。
「あー、それにしてもホント、ワクワクした!案内してくれてありがとう、ブッコロー」
「ドウイタシマシテ」
「もー、まだ怒ってるの?お化けがいるってからかったこと」
「なわけアルカイッ!久々に店内中歩き回ったから疲れただけダッテの!」
「でも、ホント、初めて見るものばかりだから興奮しちゃった!凄いね、本物って!画面だけで想像してたのと全然違ったよ。本当は、文房具とかも実際に使ってみたいけど、売り物だからダメ、だよね?」
実物を見ると、今度は実際に触ってみたくなる。無理だとわかっていても、ケンは心の中から出てくる初めてとも言える自発的な欲求がふつふつと湧き上がってくるのを感じていた。
「あー、まあ、普通はダメだけど、ボールペンとかだったら試し書きできるゾ」
「……ボールペンって何?」
「はっ!?オマエ、ボールペンも知らないのカ!?あ、まだ鉛筆しか使ったことナイとか?」
「キーボード入力しかしたことない。鉛筆も『昔の人は、こんな道具で書いていました』って紹介文しか見たことないよ。紙も触ったことないし」
「マヂかよ……。どうなってるんだ最近の教育は……」
自分の知っている学校と今の学校は、こんなにも違うのか。本日、何度目かわからない深いため息を、ブッコローは大きくつくのだった。
「ねえ、ブッコロー。ちょっとだけでもいいから、実際に紙に、道具を使って書いてみたいんだけど、ダメ……かな?」
深いため息をついているブッコローに、ケンは表情を伺いながら聞いてくる。
「アア、そうだナ。せっかくここに来たならやってミロ!やってミロ!鉛筆、クレヨン、ボールペン、何がいい?紙もいろんな種類がアルけど、そうだな、試し書きに使ってヨサそうなモノは……」
「あっ、ブッコロー!
「何でボールペン知らないヤツが、ガラスペンなんて知っているんダ!?知識の振れ幅デカ過ぎダロ!?」
「今日、たまたま読んだ小説の中に出てきたんだよ。何か、文房具を使って勇者たちが魔獣を倒すって話。攻撃に使ういろんな文房具の中で、奥義を使えるのが
………。
ケンの問いかけに、訝しげな顔で左右非対称の目玉をギョロギョロ動かすブッコロー。
何か、変なことでも言っただろうか。
やはり、実際に物に触るなど許されないこと、“悪”だったのだろうか。
自分の願いが心の中で萎縮し始めてきたケンに対し、逆に独特な機械音を発しながらブッコローが問いかけてきた。
「……ケン。ソノ小説の
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