第2話 血縁関係

あっという間に放課後になった。

俺は今、委員会の集まりがある姉ちゃんを校門で待っている。

「零くんさ、一生姉離れ出来ないよな」

「うるせぇよ、竜聖」

無論、こいつも一緒に。

竜聖の家は俺たちの家の隣で、朝は一緒じゃないけど、放課後はこうやって三人で帰る。

「海さん、遅いな」

「図書委員が主催の学校イベントが近いうちにあるらしい。姉ちゃんは委員長だから、焦り気味なんだと」

「誰情報?」

「同じクラスの図書委員情報」

俺がスマホを見ながら答えると、竜聖は『なるほど』と言った。

竜聖は一人っ子で、俺みたいな姉を好きになるような経験とは無縁の人間だけど、それなりに相談には乗ってくれる。我ながら良い幼馴染みを持ったものだと思う。

「ごめん、お待たせ!」

校門に来た姉ちゃんは、きっと走ってきたんだろう、息が乱れ、肩を大きく上下させている。

「海さん、お疲れ様っす!」

「ありがとう、竜聖くん!」

「別に走ってこなくても良かったのに」

相変わらず素っ気ない返事しか出来ない俺は、少し自分にイラついた。

校門を出て、俺の前を姉ちゃんと竜聖が並んで歩く。これは多分だけど、姉ちゃんは竜聖が好きだ。竜聖と話す時は、いつもより少し声が高くなって、ボディタッチが増える。

俺の見間違いだと思いたい。

「零、どした?」

「え······?」

「さっきからなんも話さねぇじゃん」

「ああ、いや、考え事してたっていうか······」

「そ?ならいいけど。転けるなよ」

「転けるかよ」

ははっ、と乾いた笑みを浮かべて、俺は竜聖の言葉に反応した。その時も姉ちゃんは、竜聖を見ていた。──俺だけを見てほしい。と思うのは、我儘だろう。

姉弟なんだから、血が繋がってるんだから、俺たちは付き合うことすらも出来ないのに、幼馴染みの竜聖は出来る。こういうことに関しては、嫉妬しまくりでちょっと羨ましい。

「いいなぁ······」

俺のそんな叶わぬ願望は、空を切った。


***


「ただいま」

竜聖と家の前で別れて、俺と姉ちゃんは帰宅した。

「零、体操服出しといてね」

「りょーかい」

姉ちゃんのその言葉から、今朝の会話を思い出した俺は、部屋に行く前に、洗面所にある洗濯カゴの中に体操服を放り込んだ。

そして自分の部屋に行って、服を着替えて、再度リビングに顔を出した。

「姉ちゃん、今日の夜ご飯、俺作るよ」

「え、ほんと?ありがとう、零!」

「······まあ、うん」

姉ちゃんの眩しくて可愛い笑顔に耐えられなくなった俺は、キッチンのシンクの方に目を逸らした。

姉ちゃんは学校でのイベントの企画を詳細まで考案するために、部屋に戻った。

俺は冷蔵庫の中身を見て、『オムライスなら作れるな』とオムライスの材料諸々を取り出した。

小さい頃から、母さんが中々帰ってこない家庭で育った俺は、料理とか洗濯とかを難なくこなせる。だから、私生活ではあまり苦労しない。

オムライスの土台となるチキンライスを、プロのシェフみたいにフライパンを振ってご飯と具材を混ぜ合わせる。それをお皿に盛った上に、ふわっふわになるよう火加減を調節して焼いた黄色い卵を、これまたふわっと優しくのせる。その上にケチャップでネコとクマの絵を描いた。もちろん姉ちゃんのがネコ。

「姉ちゃーん!ご飯出来たよー!」

多分作り始めて一時間くらい経った。

俺の部屋の隣の『海ルーム』とプレートがかけられたドアの前でそう言うと、中から『はーい!』と俺よりも元気な声が返ってきた。

その返事から数秒経ったあと、部屋のドアが開き、姉ちゃんが出てきた。

「ありがとね〜!助かった」

「企画の方は?」

「おかげで順調です!」

「そりゃ良かったです」

姉ちゃんが親指を立ててグッド、というサインを出したので、俺も同じようにして返した。

階段を下りて、ダイニングに行き、テーブルに並べられてるオムライスを見て、姉ちゃんは目を輝かせた。

「かっわいい〜!ほんと零って器用よね!」

「そう?これくらいだったら普通に······」

「うそ!?」

ケチャップで描かれたネコを可愛い、可愛いと何度も言いながら、姉ちゃんは席に座った。そして、一緒に手を合わせて『いただきます』と言って、オムライスを頬張った。

「······なあ、姉ちゃん」

「ん?」

「いつになったら、俺だけを見てくれるの?」

「······へ?」

「え、あ······違う!なんでも──」

「私と零は姉弟」

「······!」

「でしょ?」

······わかってた。真面目な姉ちゃんだから、そういうことに対しては少し厳しいだろうなとは思ってた。

でも、いざそうやって返されるとズキッとくる。

「······うん。そう、だね······」

俺と姉ちゃん二人とも、それ以上は何も言わなかった。



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