第3話 戦争にいけ

「ルデス、身体でも悪いのかい? さっきから変だよ」


 母親が心配そうにルデスの額に手を当てる。

 母親の柔らかい手の平が心地い。

 少し混乱は収まりつつあった。

 だが、父親の頬にある傷が目に入った瞬間、気持ちが高ぶった。

 ルデスはその手を払った。


「父さんは何で傷だらけなの!? 俺は誰なの!?」


 混乱していた。

 ゲームをベースにした異世界ならまだ目標を立てやすい。

 だが、これが真正の異世界だとすると非常に厄介だ。

 現世に戻る術が思いつかない。

 

「ルデス……」


 父親は優しい目をしていた。

 突然混乱した息子に困惑しながらも、何とかしてやらねばと思っているのだろう。

 そして、ルデスの肩に手をやり優しい声で語りかける。


「ルデスは俺とお母さんの大事な子供だ。おっと、お前の双子の妹のパティも」


 妹がいるのか。

 しかも双子。

 現世では自分には姉がいた。

 うるさい姉だったが、今は不安で仕方ないので、そんな奴でも会いたい。


「この傷はなお前達を守るために出来た傷だ。……父さんはお前達のために帝国との戦争で戦っている。その時に出来た傷だ。勲章の傷だ」


 と、父親は右頬にある傷を指差した。

 父親は自慢げに胸を叩く。


 モンスターと戦っていない。


 その事実は、やはりここがゲームベースの異世界でなさそうだ……ということを意味していた。

 そして、父親は普段はこうして農作業をしているが、たまに戦争に呼ばれている様である。

 ということは、ルデスも大人になれば、徴兵されこの世界の戦争に出征させられる。


(戦死……)


 大抵の場合、異世界で死すということは、現世に戻れないということを意味する。

 恐らくゲームベースではないこの世界はとても現実的で、魔法など存在しないのだろう。

 治癒魔法や蘇生魔法も無い。

 運が良くても致命傷で寝たきり。

 最悪、ただの一兵卒として目立つことなく、戦死して、はい、終わり。

 転生者らしく特殊スキルをゲットしてモンスターを無双しまくり、ハーレム展開からの英雄譚も程遠く、恋人にも頼られず死ぬ。


「嫌だ!」


 ルデスは走り出した。


「お、おい! ルデス!」


 父親と母親の叫びが遠くなっていく。


--ダンジョンへ行かなきゃ。


 あの記憶の声が蘇る。


 そうだ。ダンジョンに行けば、何か分かるかもしれない。



 兎に角、ダンジョンへ向かう。


「お、ルデス? どうした?」

「村から出ると危ないよ!」


 他の村人が口々にルデスに声を掛ける。

 皆、農作業をしていた。


 走りながら、この村の人口はどれくらいで、この世界ではどういう位置付けの村なのだろうか考えていた。

 何とかこの世界の知識を仕入れて、今後の生活に備えなければならない。

 兎に角、命さえ落とさなければ、現世に戻るチャンスはあるはずだ。


 そのためにはまずダンジョンを目指す。


 ルデスの唯一無二の記憶だから。


 他の記憶は全く無いのに、ダンジョンの場所の記憶ははっきりとあった。

 村から少し外れた森の中だ。

 ダンジョンが見えて来た。


「あ」


 そこには、少年二人と少女二人がいた。

 少年の一人と目が合った。

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