第2話 ここはどこなの? 俺は誰?
「おお! ルデス。お前のお陰で畑の作物も実ってるな。父さん、嬉しいぞ」
筋骨隆々で、短髪、髭面の男。
手には畑から引っこ抜いたと思しき、土が付着した巨大な大根の様な作物。
ルデスは確信した。
この男はきっと自分の父親だと。
記憶がなくとも血のたぎりでわかる。
血縁とはそういうものだ。
「それにしても、大きくなったな!」
父親はルデスを丸太の様に太い両腕で包み込み、抱きしめた。
ルデスは汗臭い父親の胸板に顔をうずめることになる。
(巨乳だったらよかったのに……)
と、現世での初恋の相手の巨乳を想像するルデスだった。
それはともかく、ルデスは状況から自分が農民の子供だと結論付けた。
父親と母親の言動から、普段は両親の畑仕事を手伝っているらしい。
そして、今日は久々に父親が家に帰ってきたのだろう。
……ということは、父親は他に仕事を持っている?
畑には様々な作物が実っている。
ルデスと両親が育てたものだろう。
恐らくそれを糧にして、この娯楽の少なそうな村で日々過ごしているのだろう。
それにしてもルデスを抱きしめる父親の身体の何と逞しいことか。
そして、自然に目が行くのは身体中に付いた傷跡。
恐らく剣で切り付けられたのであろう胸の傷。
二の腕には槍で突かれたと思しき穴があったりする。
(これって……)
もしや、父親はモンスターと戦っているのでは……
モンスタハンターをなりわいとしていて、農業は副業なのだ!
……きっと。
ルデスは想像した。
この世界はきっとRPGの世界だ。
きっとプレイしたことが無いゲームの世界なのだろう。
だとするなら、一体何のゲームなのか。
ルデスは現世では自称ゲーマーだった。
MMORPG『銀の翼』では、『神メンバー』として語り継がれるほどのプレイヤーだった。
(『銀の翼』の知識が全く通用しないとは、非常に不利だ)
ルデスがプレイしたことのないゲームの世界だとしたら、どう戦えばいいのか。
きっと元の現世に戻るには魔王なりそれに等しい者を、倒さないといけないのだろう。
だが土台となる、そのゲームを遊んだことが無いのであれば、裏技も、ストーリーも、戦い方も分からない。
どういうゲームシステムなのか皆目分からない。
攻略法などもってのほか。
全てが初見。
「くっ……」
途方に暮れかけた。
現世でやり残したことは沢山ある。
初恋の堅粕優菜にも告白していない。
それに、大好きなゲームも沢山ある。
大好きなゲームに転生できるなら、まだ、いい。
だが、やったこともないゲームの世界に転生しても面白くもなんともない。
(……って)
本当にゲームなのか?
ルデスは一つの実験をしてみることにした。
眉間に皺をよせ、虚空の一点を凝視する。
……出ない。
ステータス画面が虚空に浮かぶかと思ったら浮かばない。
ということは、この世界はゲームの世界でもないのか。
ふぅ……
もっと途方に暮れた。
「どうした? ルデス」
心配そうな顔の父親。
「う、うん……大丈夫」
「じゃ、続きやるぞ」
父親はそう言うと、ルデスから手を離し鍬を手にした。
「と、父さん……」
ある意味初対面の人を父と呼ぶのは気恥ずかしかったが、構ってられなかった。
「何だ?」
「ここはどこなの?」
「どこって……、お前?」
父親は困惑しながらも笑顔だった。
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