転生したら異世界ファンタジーシミュレーションRPGのダンジョンで戦うことになった件

うんこ

第1話 ダンジョンへ行かなきゃ。

「あれ? ここはどこだ?」


 天月宗孝は辺りを見渡した。

 広くて青い空、緑生い茂る山。

 近隣に視線を転じると、作物が実った畑、そして藁と木で作られた粗末な家が点在している。

 ぱっと見、田舎といった風景が彼の眼前にはある。

 遠くから動物の鳴き声が聞こえる。

 目をやると牛舎や馬小屋があった。

 ちょっと離れた場所には煉瓦でつくられた小さな教会だってある。

 まるで中世ヨーロッパの片田舎だ。


「……さっきまで部屋でゲームしてたはずなんだが?」


 宗孝は困惑した。

 世界で大人気のMMORPG『銀の翼』を自室でプレイ中だったはずだ。


 天月宗孝は普通(自称)の高校一年生、16歳。

 通ってる高校の偏差値は50。

 その中で、成績は中の下。

 部活は特に入っていない。

 ゲームの時間を確保するためだ。

 同じクラスで、『銀の翼』では同じパーティの堅粕優菜(プレイヤー名はシルビー)という女性に恋をしている。


「もしや、ゲームの中に転生?」


 アニメやラノベでお馴染みの展開を疑ってみた。


「俺が一体何をした!?」


 思わず叫ぶ。


「なにをした~、た~、た~……」


 その声は虚しく、山に跳ね返ってこだまとなっただけだった。


 まだまだ、現世で沢山やりたいことがあった。

 夢はゲーム会社に入って売れるゲームを作り、それを堅粕優菜にプレイしてもらうこと。

 それが縁で、彼女と結婚することだった。


「分かったよ! クリアしてやるよ!」


 宗孝は腹を決めた。

 銀の翼の世界が具現化したのなら容易い!


 何たって彼は、銀の翼の中では全プレイヤー1000万人の内、10人しか存在しない『神メンバー』の一人なのだ。


 だが……


 どうも何かが違う。


 仮に銀の翼に転生したとしよう。

 だとするなら、自分の姿はゲーム内のアバターと同じか、あるいは近しい姿のはずだ。

 宗孝は騎士を職業に選び、その姿は高身長の痩身で、目鼻立ちが整った秀麗な男だった。

 宗孝は自分の身体を見渡してみて首を傾げる。

 そして、水たまりに自分の姿を映した。

 容姿端麗とは程遠かった。

 そこにいたのは、ボロ布をまとった腕白少年だった。

 赤みがかった短い髪に、ソバカスのある顔。

 つぶらな瞳と丸い鼻は、愛嬌があると言えばある。

 身長は165cmくらいだろう。

 つまり、現世での宗孝の姿そのものだった。


「どうやら、銀の翼の世界に転生した訳ではないらしい」


 自分の姿形から、宗孝はそう結論付けた。


「転生したとすれば、ここは何処で、俺は何者になったんだ?」


 自分の容姿とそっくりの異世界人に転生したというのか。

 宗孝は考え込んだ。

 その割には、その異世界人の持つ記憶が頭の中に湧いてこない。

 湧いて来るのは、現世での宗孝の記憶だけだった。

 

「ルデス、何サボってんの!」


 女性の甲高い声がした。


「ルデス?」


 振り返ると、太った女性がパタパタと土煙を上げながら駆け寄って来た。


「ルデス、ちゃんと、お父さんのお手伝いしなさい!」

「ルデス?」


 宗孝の目が点になり、女と目が合う。

 太った女は宗孝の手首を掴んで引っ張る。


「そうよ。あなたはルデスよ。この村にルデスという名はあなただけよ。農作業をさぼりたいからって、他人の振りしたりしてとぼけないで」


 この世界での自分の名前は、ルデス。

 宗孝はそう胸に刻んだ。


(どうやら俺は自分ソックリのルデスという少年に転生した様だ)


 彼はそう結論付けた。


 ここからは宗孝のことをルデスと呼ぶ。


「母さん! 痛いよ!」


 物凄い馬鹿力だ。

 腕が抜けそうだ。

 だが、手の平から温かみを感じた。

 そして、この人の血が自分にも流れていると、ルデスは本能的に悟った。

 ルデスは、自分の手を引っ張るこの太った女が母親だと結論付けた。


 説明は不要だ。


 それが血縁というものなのだから。


「むむ……」


 走りながらルデスは顔をしかめた。

 ルデス少年の記憶を手繰るが、一向に手が届かない。

 ルデスの頭と心にあるのは現世での記憶だった。


 だが……


--ダンジョンへ行かなきゃ。


(え?)


 手繰り寄せたることが出来た。

 異世界での記憶はそれだけだった。


(俺は、どうやらダンジョンへ行く予定が今日、あるらしい……)

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