事故物件

登美川ステファニイ

事故物件

「いやー得したな。この立地で4万8千円とはね。さすが事故物件」

 部屋にはまだ引っ越しの段ボールがそのままになっていた。明彦はフローリングの床にあぐらをかいて座り一息ついた。

「いままでの事故物件も結局何も起きてないし、こんな事なら逆に霊障ってやつに遭遇したいもんだぜ」

 うそぶくように明彦が言い、馬鹿馬鹿しいとでも言うように不敵に笑った。

「さ、腹減ったし飯でも食いに行くか」

 立ち上がって出かけようとしたところで、明彦は奇妙な音に気付いた。

 カリカリ……何かを削るような、かじるような音。

 気のせいかと思い耳を澄ますと、また音が聞こえた。

「何だこれ……なんか頭に響くな……?」

 無視して出かけようとするが、音は次第にその音量を増していった。

「あーなんだ? 箱の中から聞こえる?」

 音は断続的に続いてやむことがない。明彦は置いてある段ボールに耳を当てて確認する。違う……この箱ではない。これも違う、これも……。手当たり次第に明彦は確認していくがどの箱もちがう。

「頭が痛くなってきた……? なんだこれ? 早く、見つけないと……」

 明彦は強い衝動に駆り立てられるように音の源を探す。奇妙な音。今はもうその事しか考えられなかった。

 明彦は段ボールの梱包を解いてひっくり返す。ここじゃない。これも違う。荷物を次々に床にぶちまけながら探索を続ける。

「違う! 違う! 何だ、どこにある!」

 呼吸は乱れ、髪の毛が額に汗で張り付いていた。眼は異様に血走り、顔の色は白い。

「もしかして、ここか……?!」

 明彦は耳を両手で塞ぐ。カリカリ……音が聞こえる。それは耳の内側からの音だった。

「うああ! くそ、うるさい!」

 明彦は髪の毛をかきむしり、壁に頭を打ち付ける。そして床に転がっていたはさみを取り自分の右耳へと突き立て、床に倒れ込んだ。

 カリカリ……音はやまない。明彦は絶望的な気分を味わいながら、不審な死を遂げた。

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事故物件 登美川ステファニイ @ulbak

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