ハンバーグ

黒百合咲夜

彼女に浮気された

 僕の何がいけなかったのだろうか。

 いつもよりも赤い夕焼け空を背景に、これまでの行動を振り返ってみるけれどやっぱり何も心当たりはない。


 ――幼馴染みの彼女が浮気をしている。


 最初、親友からそのことを聞いたときには嘘だと思っていた。

 でも、今日実際にその浮気現場を見てしまっては信じるしかない。隣のクラスのバスケ部と腕を組んで喫茶店から出てきた彼女は、僕にはここ最近見せたことがないような笑顔をしていた。


 今日、デートに行こうと誘ったのに、体調が悪いと断ったよね?


 そう思うが口には出せなかった。

 僕なりに彼女が喜ぶことをしてきたつもりだった。

 でも、その結果がこれだ。彼女に裏切られて惨めな思いをしている。

 スマホに保存されていた彼女との思い出をすべて削除する。

 写真が消えていく度に、僕の心は晴れるどころかより深く沈んでいく。

 再構築を考えるけど、多分無理だろうと諦める。


「ただいま」


 気が沈んだまま家の扉を開けた。


「あ、お帰りなさいお兄ちゃん」


 ちょうど風呂場から出てきた妹が、バスタオル姿で迎えてくれた。

 妹の顔を見て、しっかりしなければと顔を叩いて気を取り直す。

 両親が事故で死んで、妹だけが僕に残された家族だ。妹にはあまり心配をかけたくない。


「ねぇお兄ちゃん。今晩のご飯って決めてるの?」

「いや、まだだから買い物に行かないと」

「じゃあ、私が作るよ。いい感じの豚肉が手に入ったから。新鮮だよ」


 無邪気な妹の笑顔。

 そういえば、なんだか家の中が少し鉄臭い気がする。


「なぁ。その肉大丈夫か? 変な臭いがしてる気がするし、腐ってたりとかは……」

「確かに腐ってたかも。でも、腐ってたのは内面だから問題ないよ」


 それなら問題ない、のかな?

 ご飯は妹に任せて、僕は部屋に籠もろう。少しだけ泣かせてほしい。


「今晩はハンバーグにするね。楽しみにしててよ」


 そう言って、妹は包丁と共に風呂場へと消えていった。

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