【第49話】謎解き
「ようやくだね」
「はい」
僕は今日退院した。
ソルボンとアイが迎えに来てくれ、事務所に戻った。久しぶりの事務所の香りは数年ぶりに訪れた母校のような感覚があった。
「病み上がりのところ申し訳ないが、事態は緊迫している」
「はい。いつでもどこにでも行けます」
「まあ、焦るな。こちらから出向かなくても向こうから来るだろう」
僕が入院していた数ヶ月の間に世界は変わってしまった。
力を蓄えていた死遊軍が恐怖と怨恨で世界各国の首相に就任し始めたことにより、日本では今まで沈黙していた魔術協会が本腰を上げ、一般人に魔術師の存在を明るみにした。
「国民はどのくらい信じているんですか?」
「イギリスを始めとした数カ国は宗教や伝説等の影響もあり、ほとんどの国民が受け入れている。日本は……半々といったところか」
政界の老人たちはその存在を信じたくないのか、今回の公表も最後の最後まで反対していた。実際、有耶無耶にして揉み消そうとする輩もいたようだ。
時計台は上手くやってくれているようだが、このままでは死遊軍が世界征服をするか、若しくはあの魔女が世界を破壊するかの2択を迫られることになる。
「あ、でも悪い報告だけじゃないよ!」
アイが無理やり笑顔をつくる。だが、その悪くない報告は僕の士気を上げるものだった。
「な、な、なんと! 吉川から鳩が届きましたっ!!」
「え、それって……」
僕はこの時、罠ではないかと疑っていた。魔術は文字通り無限大だ。だからこそ、吉川からの手紙も偽装することができるはずなのだ。
「私も最初は疑ったけど、この印はアイツにしか押せないものなの」
アイは自慢げに手紙を見せびらかせる。手紙の端には蝶々の印が押してあり、そして中央には……。
-足の岬に新世の幕開けを感ず。
畳を擦らば魔人もうちいでもこそ。
「え、これだけ……?」
「うん」
「うんって、これじゃあどこに吉川さんが居るのか分からないですよ」
僕たちは眉間に皺を寄せながら手紙を見つめた。手紙自体には魔術の痕跡は無い。頭の悪い2人ではこの文字の意味を解読することは困難だった。
「いつまで黙っているんだ」
呆れた表情のソルボンは、コーヒーを飲みながら手紙を覗き込んだ。
「どこかの場所だろう」
「それが分かんないだよ!」
「はぁ、地図はないのか?」
「これしかないから」
アイはむすっとして旅行用のパンフレットを差し出した。パンフレットをパラパラと捲るソルボン。
「君たちは本当に日本人か?」
「なんなの?! 真剣に考えてるんだから、茶々を入れるのは老人の悪い癖よ!」
パンフレットを強引に奪う。
「こんな
「あれ? ちょっと待って下さい」
「な、なに?」
そのページには美しい海の写真と、大きくキャッチフレーズがひと言。
-四国最南端の岬。
「あ」
「老人には、もっと敬意を払って欲しいものだな」
「う、う、うるさい!!」
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