【第46話】夢言

「……」


 彼女の声が届いていないはずはない。だが、アカリは沈黙を貫いた。時間が経てば経つほど、僕が抱いていた彼女への想いは、次第に恐怖心へと変わっていった。


「どうして黙っている」

「アカリ……?」

「……ふ、ふふふ……キャハハハハッ!」


 顔を上げたアカリは、口が裂けるほど大きく広げ、転げるように笑い出した。それは、今までに見たことがないほど恐ろしい光景だった。


「ふふふ、ごめんねリュウキ。ずっと嘘ついてて」

「何のこと……?」

よ」


 僕を見上げる彼女は、最早僕の知っているアカリではなかった。

 

「離れろ少年!!」


 刃物で裂かれたような激痛が走る。ニコッと笑ったアカリから目線を落とすと、彼女の腕が僕の腹部に突き刺さっていた。


「ドクドク鳴ってるね……キャハハハハハ!」

「離れろって言ったじゃんか!!」


 パンッ。

 少女が手を叩くと、目の前の空間がよじれ、やがて広い部屋は消えた。僕が立っていたのはあのボロ小屋だった。アカリの姿もあの少女の姿も見えない。


「僕は……死んだ、のか……?」

-いいえ。まだ死んではないわ


 驚き振り返ると、そこには夢の少女が立っていた。


「なんだ、君か」

-本当に失礼な人ね

「ごめん。君がいるってことはここは夢の中?」

-そうかもね。ええ、多分そうよ


 少々の沈黙が流れる。いつもならそんなに長い時間は話していられないが、今回は何か変だった。一向に夢から覚めないのだ。


「これってヤバいんじゃ……」

-今気がついたの? ええ、ヤバいわよ

「かなり?」

-多少よ

「本当?」

-それなりに……

「結構危ないんだな」

-まぁまぁよ


 この場合のとは一体何なのか。

 彼女は今の状況を簡潔に教えてくれた。まず、アカリが僕の腹をえぐったあのシーンは現実である。そして、僕はその影響で瀕死である、と。


「いや、このまま死ぬんじゃない?! 完結じゃん!?」

-落ち着きなさい。私がバラバラにされた貴方の心臓を治しているところよ。死なせはしないわ

「そ、そっか、ありがとう」

-お礼なんて要らないから早く戻りなさい


 視界がぼやけ声が霞んで聞こえる。確かに僕に向かって声をかけているが、それはまだ鮮明には聞こえない。

 それは何人かの声と影だった。必死に喋ろうとしたが、口から出る事はなく、僕はまた暗闇に戻った。


 どのくらい眠っていたのだろうか。僕は白いベットの上で目を覚ました。隣には女性が突っ伏して寝ている。


(誰だろう、お母さんかな……いや違うか)


「目を覚ましたか」

「ソルボン……!」


 懐かしい、申し訳ないという気持ちが僕の心を駆け巡った。


「言いたい事はあるだろうが、それは言わなくても良い。彼女には怒られるかもしれんがな」

「もう、食べられないヨォ……グゴゴゴ」

「アイさんには後で謝ります」

「ああ、そうしてくれ」



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