【第44話】永遠に

「よく寝た! ソルボン聞いてよ。変な夢見た!」

「寝起きから騒がしいな」


 最近のアイは事務所で寝泊まりしているようだ。昨晩見た夢の話をソルボンに聞かせるのが日課になっていた。


「ねえねえ、聞きたい?」

「聞く必要がない」


 コーヒーを片手に朝刊に目を通すソルボン。見ての通り全く興味がない。毎日しょうもない話を聞かされれば誰でもそうなるだろう。


「いいから聞いてって、リュウキくんが出てきたんだよ」

「そうか。良かったな」

「それでね、同級生の女の子と逃げてたの」


 その言葉を聞いたソルボンはふっと顔を上げた。


「それで……?」

「なんとびっくり、その同級生も魔女だったんだよ!」


 盛り上がるアイとは裏腹に、険しい顔をするソルボン。ここまで胸騒ぎが激しくなったのはいつぶりだろうか。

 2人はまだリュウキの身に危険が迫っていることに気づいてはいなかった。


                  ★


「こんな森の中でも見つかるのは時間の問題だ」

「そうだね、そろそろ行こう」


 2人は周囲に警戒しつつ、森を出た。急いで出てきたせいでスマホを忘れ、今が何時か全く分からない。陽の光は僕らの向かい側から煌々と向かってくる。


「ここを下ればすぐだよ!」

「う、うん……」

「大丈夫?」

「なんかふらふらして……」


 思い返してみれば、晩御飯にインスタント麺を食べてから何も口にしていなかった。僕は軽い脱水症状を起こしていた。


「待って」


 僕はそのまま倒れ込んだ。

 気を失っている間誰かが瞼の裏に現れた。夢か幻覚か、またあの少女だった。


−女の子に助けられるなんて、情けないわね

「うるさい」

−何故、彼女に着いて来たの?

「……助けが欲しいって」

−流石に呆れるわ

「何がだよ!」

−前に忠告したはずよ。あのには気をつけなさいって

「あの娘ってアカリの事だったのか?!」

−はあ、本当に馬鹿


「リュ……リュウキ、大丈夫?!」

「あ、ああ」


 僕が目覚めたのは、流水と草木の音が響く川の畔だった。

 心配そうな表情でアカリがこちらを見つめている。どのくらい眠っていたのだろう。


「もう大丈夫だよ……ありがとう」

「良かった。急に倒れ込んだから死んじゃったかと思った」


 ほっと胸を撫で下ろすアカリ。僕の頭の中にはあの少女の言葉がこだましていた。

 立てるようになるまでは数分かかってしまった。まだ若干ふらふらするが、敵に見つかってしまってはそれこそ目も当てられなくなる。


「ごめんね、私が急に巻き込んだから」

「いや、僕が決めた事なんだ。アカリのせいじゃないよ」


 アカリは自分の行いを後ろめたいようだった。


(きっとアレはただの夢だ。気にするような事じゃないだろう)


 僕はひたすらに彼女の言葉、行動を信じ続けた。


 それは、例え彼女が死んでも変わらないだろう。



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