【第43話】夜明け

「ここまで来れば……」


 どのくらい走ったのだろうか。

 僕たちが逃げ込んだ林の影に、白白と明けてきた空の灯りが薄らと差し込む。


「ここなら安全かな?」

「とりあえずね。でもまたいつ追われるか分からないし、一旦ここで休んでそれから考えよう」

「うん、分かった」


 街を出た後、僕たちは黒い影に追われていた。逃げても倒しても追いかけて来るその影は、林に入ったことでこちらを見失ったようだ。

 無意識に繋がれた2人の手は、離れることなく強く結ばれていた。


「ごめんね……」


 アカリは俯き、言葉を詰まらせた。


「良いんだよ。僕が決めた事だし」

「でも私が言わなければこんなことには……」

「僕がアカリに着いて来なくても、結局は同じだったと思うよ」

「リュウキ……」


 潤んだ瞳が朝焼けを映しキラキラと輝いて見えた。

     


「えへへ……」

「嫌だった、よね……?」

「嫌なわけないじゃん」

 

 赤らんでいる2人の頬は朝焼けのせいか、いや違う。

 この日、生まれて初めて彼女ができた。

 

 太陽が完全に顔を出した頃、僕たちは林を抜けた。奴らはどこにも見えない。


「ソレどうするの?」

「信頼できる人がいるの。その人に渡して封印してもらおうと思ってる」

「そっか。どんな人なの?」

「もしかしてヤキモチ?」

「ち、違うよ!」


 僕の目に映るのは悪戯に笑う彼女と、見たこともない村の風景だった。


「あ、ここは私の隠れ家だよ。師匠が作ったんだ」

「師匠ってさっきの?」

「ううん、その人とは別。そんなに強くないしね」


 彼女がこれほどまでに謎多き女性だったとは。

 村に入ったところでアカリは顔を歪めた。


「どうしたの?」

「なんか変……」

「変って」


 確かに人の姿が無いだけでなく結界もない。それに、何かが焼け焦げた匂いもする。


「まさか」


 突然彼女が一目散に走り出した。最早、僕の声は届いていない。

 アカリの後を追いかけ、村の中央にある家に入る。2人の目の前に広がっていたのは、信じられないほど悲劇的なものだった。

 

「なんて事を」

「……」


 彼女の目に悲しみはなく、怒りだけがギラギラと浮かんでいた。


「行こう。敵はまだ近くにいるはずだし」

「うん……」


 彼女は冷静だった。いや、そうでもしなければ精神を保っていられないのだろう。

 やがて太陽が登り日差しが厳しくなってきた。


「この峠を越えればもう少しだから」

「う、うん」

「ああ、もう! 飛行魔術欲しいなあ!」


 もうやけくそだ。

 舗装されていな坂道に膝が震えてきた。街を出てから既に5時間動き続けているが、まだ道のりは遠い。


「ちょっと休憩しようか」

「そうだね」


 疲労困憊状態だった僕たちにとって、この束の間の休憩でさえ癒しの時間となった。



________________________________


 この作品が面白いと感じたら、ブックマークと★★★評価していただけると励みになります!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る