第二章 呪いの生還

【第41話】共闘

「はい、もしもし?」


 夜中に鳴り響く電話に起こされ、不機嫌さを隠しきれないまま耳を当てる。


「あ、水口くん?」

「アカリか……アカリ、アカリ?!」


 思いっきり目が覚めた。

 電話の向こうから聞こえるのは間違いなく、アカリの声だ。


「イタタタ……」


 僕のテンションは勢い良く上がって、軽く貧血気味だ。


「どこにいるの?」

「あのね、ちょっと話がしたいから今から会えない?」

「え、うん、それは良いけど……」

「良かった! じゃあ迎えに行くから」


 ポロンと通話が切れた音で冷静になった。


(彼女はどこに居たんだ? 話ってなんだ? 本当にアカリか?)


 そんな疑問を抱えながら、とりあえず着替えを済ませて彼女を待つ。


 ピンポーン。


 インターホンが鳴り響く。

 無事だったという安心感か、久しぶりに会える高揚感かは分からないが、胸がドクンと震える。

 扉を開けて彼女を見る。いつぶりかのアカリは、イメチェンしたのかと思うほど様相が違っていた。


「久しぶり!」

「う、うん……その格好は?」


 真っ赤なローブに真っ赤なピアス。まるでのような見た目に僕は呆気に取られた。


「あ、コレ?」


 照れ臭さそうに自分の服を見る姿は、いつものアカリだ。


「その説明もしたいからちょっとお邪魔してもいい?」

「あ、うん、もちろん」


 冷蔵庫からジュースを出し、コップに注ぎながらちょこんとソファに座ったアカリを見る。彼女は、机に置かれた花を興味深そうに見つめていた。


「お待たせ」

「ありがとう」


 ゴクゴクと飲み干し、ひと息ついた所で言葉をかけた。


「それで話って?」

「うん……信じてもらえないかもだけど」


 小さく俯く彼女はどこか悲しげに見えた。その姿は抱きしめたくなるほど愛おしい。


「どんな事実でも信じるし、受け入れるよ」

「ありがとう。実は私……」


 その瞬間、家の中のどこからか不気味な気配を感じた。それは彼女も同じようで、何かを探すように周りを見回している。


「なんか変だよね」

「うん。僕ら以外は誰も居ないはずなんだけど」


 その気配は徐々に大きく膨れ上がり、まるでこの家自体が狂気に飲み込まれているかのようだった。

 

「あそこ!」


 アカリの指差した方向には黒煙がぐるぐると渦巻き、家具を吹き飛ばしていく。そして、それは姿を現した。

 黒煙の中からは黒いローブに髑髏の仮面を被った魔術師が現れ、僕たちを見下ろしている。見るからに凶悪なその姿は、間違いなく死遊軍の魔術師だ。


「何をしに来た!」

「小僧に用はない。私はそこにいるに用があるのだ」


 魔女?

 魔女って?

 ああ、やはりそうだったのか。


「アカリは渡さない」

「ふん。思い上がるなよ小僧」


 男が放った刃は僕に向かった。


「させるかぁ!」


 一瞬の事で何が起きたのかは分からない。だが、男の刃は僕に刺さるほんの数センチで止まっていた。


「水口くん、蜘蛛を」

「う、うん!」

「くっ、小癪なガキ共が」


 僕はわけも分からず大量の蜘蛛を魔術師に向けた。それを振り解こうとした奴の腕や首筋に蜘蛛が噛み付き、部屋には大量の血飛沫が舞った。


「ぬわぁああああっ!」


 やがて男は倒れ、静寂が戻った。

 

「お部屋、汚れちゃったね」

「そう、だね……」

「ちょっと待ってて」


 そう言ってアカリは手を翳した。


「revenir à la normale.」


 元通りになった部屋で男の死体だけが横たわり、僕と彼女は見つめ合っていた。



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