【第39話】すぐ側に
「それ
「ああ、リュウキくんと仲良かったよね」
「家出ってやつ?」
「嫌だよねぇ。そんな事する子には見えなかったけど」
朝から見ないとは思っていた。だが、アカリが家出するなんて考えられない。ポツンと空いた隣の席は、アカリの身に何かあったのではないかという不安だけが残っていた。
アカリがいない学校はいつもに増してつまらなかった。いくら真面目な女の子だとしても、仮病という可能性も捨てきれない。僕は帰り際アカリの家に向かっていた。
「すみませーん」
「はい?」
「アカリさんの同じクラスの水口ですけど……」
「あーはいはい」
出迎えてくれたのは見知らぬ女性だった。お母さんにしては若いが、お姉さんと言うには歳をとっている。アカリの家は大金持ちだ。恐らく家政婦か何かだろう。
「あ、あの……」
「なんです?」
「アカリさんはいますか?」
家政婦の女性は眉間に皺を寄せ、深いため息を吐いた。
「昨日から帰っていないんですよ。家出するなんて、とんでもない子だわ」
「は、はぁ」
やはり家出したようだ。どこに行ったのか不安に不安が重なった僕はいつもの土手でぼうっと空を眺めていた。
河川敷に犬を散歩させた老夫婦と、ロードバイクに跨ったお兄さんが颯爽と通り過ぎて行く。
「「だから言っただろ」」
「またアンタか……」
聞き覚えのある小さな影。その正体は言わずもがな、喋る犬だ。
「言ったって何の事?」
「「女に嘘はつかない方が良い」」
「だから、何の事だよ」
「「お前のガールフレンドの事だよ」」
「どこまで知ってるんだ」
「「お前が嘘をついたから彼女はお前に着いて行ってしまったんだよ」」
「着いて行った……?」
「「ああ、時計台にな」」
この犬が適当を言っている可能性もあるが、犬が喋る時点で何が起きても不思議ではない。しかし、アカリが魔法でも使えない限り僕にバレずに着いて来るのは絶対に無理だ。
「そんなの無理だろ」
「「はぁ、お前は魔眼を持っていないのか?」」
「魔眼?」
「「魔眼があればその者が魔法が使えるのかどうかが見れる。吉川はそんな初歩も教えてくれなかったのか?」」
「ああ、なにも……」
「「あの女は間違いなく魔女だ。だが、お前の本能がその魔眼を遮っているお陰で相手にはお前の魔力量は測れない」」
何が何だか分からない。アカリが魔女?そんなわけがない。アカリにはそんな力は……。
「「無い、と言い切れるか?」」
「……」
「「お前は知っているはずだ。あの女には君の力が見えていた」」
あの時、確かにアカリには見えていた。僕の魔術を受けたヤンキーくんはともかく、側にいただけの彼女にも見えていたのだ。
「でも、なんでお前がそんなこと知ってるんだ?」
そう聞こうと横を向いた時には、既に犬は消えていた。僕の中で、アカリに対する恐怖心が大きくなっていった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
この作品が面白いと感じたら、ブックマークと★★★評価していただけると励みになります!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます